レッスン 2: 降下とエネルギー管理


ロデオ会場で、どうにも手に負えない猛牛にまたがっている自分の姿を想像してみてください。ゲートが開き、観衆が声援を送っています。あなたは、振り落とされないように必死でしがみつきながら、どうにか思いどおりに乗りこなそうと長時間に及ぶ格闘を繰り広げた末、あなたはその猛牛から振り落とされ、ロデオ クラウン (ピエロに扮したサポート役) に救い出されるのです。

これとジェット機の操縦に、何の関係があるのでしょうか。エネルギー管理を十分に理解していなければ、ジェット機を滑走路まで下ろして停止させるとき、暴れ回る牛に乗るのと同じような気分になるかもしれません。 違いがあるとすれば、ジェット機の場合にはロデオ クラウンがいないことです。牛に乗るのと同じように、ジェット機の操縦とは、そのエネルギーをいかに制御するかということなのです。

降下

空中に浮き上がり、巡航高度で水平飛行に移るまでに必要な基本的ポイントを、これまでに説明しました。次に問題になるのは、着陸に備えてどのように降下し、正しい位置に、正しい速度と高度で到達するかということです。降下を開始する時期がきたら、正しいタイミングで正しい位置に航空機を到達させるために、いくつかの重要な作業を行う必要があります。実際に降下を始める前に、クルーは次のことをすべて行わなければなりません。

  • 降下を開始するタイミングを計画する
  • ATIS、およびアプローチと着陸に関するその他の情報を入手する
  • 機体の着陸重量を計算 (または予測) する
  • 着陸時のフラップ設定と Vref 速度を決定する
  • 着陸する滑走路、および目的のアプローチを決定する
  • クルーに対し、アプローチの具体的な内容に関するブリーフィングを行う
  • 降下のチェックリストの確認を完了する

降下計画

降下計画を軽視すべきではありません。降下計画を立てるには、ある程度の経験が必要ですが、Flight Simulator を楽しむことのできる基本的なことはお教えしますのでご心配なく。それでは、降下の秘訣を公開しましょう。

タービン エンジンを装備した航空機が最も高い性能を発揮するのは、高度が高い場合です。空気の密度は薄く、燃料消費量は少なくなります。ジェット機で飛行するときには、短時間で高くまで上昇し、高高度をできるだけ長く飛ぶようにします。 高速での急降下は、航空機の性能面から見れば好ましいかもしれませんが、乗客にとっては決して快適な体験とは言えません。残念ですが、適切な降下率で降下する方法を見つけなければなりません。降下のときに、乗客全員が遊園地の絶叫マシンに乗っているがごとくバンザイしていたなんていうのは、一番あってはならないことですから。

大型のジェット機を操縦するパイロットは、高高度から降下するときによく 3:1 の原則を用います。つまり、3 海里 (nm) 前進するたびに 1,000 フィートずつ降下します。この割合で降下すれば、ファイナル アプローチで一般的に行われる、3 度のグライド スロープを降下するのと同じことになります。降下計画には 2 つの重要な要素があります。それは、いつ降下を開始するのかということと、降下率をどれぐらいにするのかということです。

いつ降下を開始すればよいか

巡航高度からの降下を開始するタイミングを計算するには、飛行ルート上のどの地点を、どれぐらいの高度で通過するかを認識している必要があります。単純な VFR 飛行の場合は、トラフィック パターン高度 (1,500 AGL) でトラフィック パターンに入ります。 民間旅客機は、多くの場合、IFR 標準到着経路 (Standard Terminal Arrival Route: STAR (スター) ともいいますが、夜間でなくても使用できます) 手順に従う必要があります。これには、指定のルート上の各地点を通過するときの高度と速度の指示が記載されています。たとえば、ある STAR には、降下して、ABC VOR から 30 DME のフィックスを高度 10,000 フィートで通過し、速度 250 ノットを維持するように、と書かれています。

3:1 の原則に従って降下を始める地点 (降下開始点) を決定するには、現在の高度から目標高度を引き、それに 3 を掛けます。この計算で求められるマイル数が、降下を開始する地点と目標地点との距離です。次の例で考えてみましょう。

現在の高度が 8,500 フィートで、空港上空で 1,500 フィートになるように降下したい場合は、降下開始点を次のように計算します。

8.5開始地点の高度 (単位 1,000 フィート)
-1.5目標高度 (単位 1,000 フィート) を引きます。
—–
7.0降下高度 (単位 1,000 フィート)
×33:1 の原則を使用するために掛ける魔法の数
—–
21空港からの距離 (海里)

この計算を暗算で行うための、簡単な方法がもう 1 つあります。降下しなければならない高度がわかったら、その数値を 3 倍すると、通過するフィックスからのマイル数になります。レッスンでは、この方法を使用して降下の進行状況を監視することにします。これで、降下中に調整が必要かどうかがわかります。

上で説明した STAR の指示の例に従うように、高度 28,000 フィートの巡航飛行しており、VOR から 30 マイルの地点を高度 10,000 フィートで通過しなければならないとすると、降下開始地点の計算は次のようになります。

28開始地点の高度 (単位 1,000 フィート)
-10目標高度 (単位 1,000 フィート)
—-
18降下高度 (単位 1,000 フィート)
×33:1 の原則を使用するために掛ける魔法の数
—-
54目標地点からの距離 (海里)

さて、いよいよお楽しみの場面です (ロデオ クラウンは出てきませんが)。目標地点 (ABC VOR から 30 DME のフィックス) から 54 海里の地点で降下を開始しなければならないことがわかりました。ということは、この 54 海里という値に 30 海里を加えて、ABC VOR から 84 海里 (54 海里 + 30 DME) の地点で降下を開始することになります。

降下開始地点を計算し、そのとおりに飛んでみて予想が正しかったことを確認するのは、非常に楽しい作業です。この計算で次に重要な要素は、降下プロファイルの中で使用する、実際の降下率です。

どれくらいの降下率ならそこにたどり着けるのか

正しい降下率 (fpm、フィート/分) を使用することは、目標地点を正しい高度で通過するためには欠かせません。3:1 の原則降下プロファイルに従うためには、降下時の予定対地速度に 6 を掛けて降下率を求めます。.

対地速度を調べるには
航法ディスプレイの左上の数値を確認します。
または、
[GPS – 表示/非表示] アイコン をクリックして、GPS から確認します。

それにしても、降下を始める前に、どうすれば降下時の対地速度がわかるのでしょうか。レッスンで使うプロファイルでは、降下開始時の速度はおよそマッハ 0.74 (対地速度約 400 ノット) です。そこで、降下開始時の対地速度としてこの 400 ノットという数値を使用して、降下率を計算することにします。400 (ノット) に 6 を掛けると、2,400 fpm ということになります。

したがって、上の例では、ABC VOR から 84 海里の地点で 2,400 fpm での降下を開始します。

巡航飛行中は、N1 の約 71% の設定で、速度約 400 ノットで飛行していました。降下では、まず N1 を 60 ~ 62% まで下げて、速度が上がりすぎないようにします。

大まかな降下率は、次のように考えます。

高度 25,000 フィート以上速度 300 ノット、降下率 2,500 fpm
高度 15,000 フィート以下速度 250 ノット、降下率 1,700 fpm
速度 200 ノット、降下率 1,400 fpm

速すぎるとはどれぐらいの速さか

計算を行うとき、速度の制御については注意が必要です。 パラメータで指定された範囲を超えないようにするために、プロファイルを変更しなければならないタイミングが 2 つあります。1 つは降下するときで、空気の密度がしだいに高くなっていきます。もう 1 つは水平飛行に移行するとき、つまり、指定された速度制限 (たとえば 250 ノットへの減速) を守るために減速を開始するときです。

FAA の規定では、高度 10,000 フィート以下では、対気速度が 250 ノットを超えてはなりません。これは非常に重要です。レッスンではこの対気速度を超えないように飛行しますが、チェックライドでもこのことを忘れないでください。

降下するにつれ空気密度がだんだん高くなっていくと、対気速度の単位が音速に対する比率 (マッハ) から、ノットに戻ります。速度を上げすぎてはならない場面で上げすぎて冷や汗をかいたりしないようにするには、対気速度計の左上に表示される赤白の縞の針 (バーバー ポール) を見て、この境目を確認します。この針は、その航空機の “超過禁止速度” を表しています。降下中は、対気速度計の針が徐々に上がってバーバー ポールに近づき、最終的に重ります。 こうなると、操縦桿から “カチカチ/カタカタ” という警告音が鳴り、速度超過状態であることがわかります。そのような状態から回避するには、N1 を 45% まで下げ、降下が完了するまでは 310 ~ 320 ノットを維持してください。

巡航高度から降下するとき、300 ノットをはるかに超える速度で一気に降下すると、あらゆる種類の運動エネルギーが蓄積していきます。これは、目標地点に到達して、速度を落とさなければならないあなたにとって、全面的に不利に働きます。これを解決するのは簡単です。降下計画を立てる際に、5 海里分の余裕をとって水平飛行に移り、アイドルで目標速度まで減速するようにします。これを上の例に当てはめるとこうなります。ABC VOR から 89 海里の地点で降下を始め、その VOR から 35 海里の地点に到達したときには高度が 10,000 フィートになるようにします。10,000 フィートで水平飛行に移行したら、出力をアイドルまで下げ、慣性で 5 海里分飛行する間に 250 ノットまで徐々に減速するのです。250 ノットになったら、スロットルを開いて N1 の 52 ~ 55% まで上げ、速度 250 ノットを維持します。

高度計を必ず再設定する

FL180 (18,000 フィート) 以下に降下するときは、高度計を 29.92 インチから現地気圧設定に再設定する必要があります。現地気圧設定の情報は、ATIS から入手します。

ここで、お父さんからの忠告です。いや、私のことですけどね。自動操縦装置を使用していて、オートスロットルを有効にしていると、減速が間に合わずに通過ポイントでの速度制限を超過してしまうことがあります。先ほどの 2 番目の例では、オートスロットルによって 250 ノットまで減速できますが、30 DME のフィックスを通過するときには間に合いません。一般に、オートスロットルを使用して減速するには、約 7 分かかります。これだけの時間があれば、かなりの距離を進むことになります。フライト マネジメント システム (FMS) を利用できない場合に、これに対処する最善の方法は、5 海里前の地点で水平飛行に移るときにオートスロットルを解除し、手動で出力をアイドルにすることです。あるいは、オートスロットルで減速するときに余計にかかる時間と距離を考慮し、減速を開始するタイミングを 10 海里前としてもよいでしょう。

もちろん、最後の手段としてスポイラー (スピード ブレーキ) はいつでも使用できます。使用するには / (スラッシュ) キーを押してください。ここで示したような綿密な計画を立て、万全な状態でアプローチと着陸をプロファイルどおりに飛行できるようにしてください。

これであなたも、エネルギー管理ができるようになりましたね。降下計画における 3:1 の原則は、航空機の種類を問わず適用できます。セスナ 172SP でもビーチクラフト バロン 58でも同じですし、高度や対気速度が低くても変わりません。エネルギー管理を極めたパイロットはほんの一握りしかいません、ましてや、ボーイング 737-800 でこれを極めることは相当難しいことです。このレッスンで学んだ原則を練習してみてください。さあ、力を入れていきましょう!

では、コックピットでお会いしましょう。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

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