ADF 計器 (自動方向探知機)


旧式の AM ラジオと同じぐらい簡単に操作できる計器

『Cleared for Takeoff』 (copyright 1998、King Schools, Inc.) からの抜粋

電子的に航法を援助してくれる装置が、キッチンの冷蔵庫の上にある旧式の AM ラジオと同じぐらい簡単に操作できるとしたら、すばらしいと思いませんか。しかも、隣に座っている人が目的の方向を指で指し示してくれるのと同じように、わかりやすく方向を示してくれる装置だったとしたら。

そうです。多少の難点はありますが、そんなしくみは存在するのです。

ADF の歴史と理論

全体のシステムのうち、航空機に搭載される装置のことを “自動方向探知機 (ADF: Automatic Direction Finder)” といいます。ただし、これだけでは何の役にも立ちません。地上側のシステムは、190 ~ 1,790 kHz の周波数を使う単純な AM 送信機です。

540 ~ 1,710 kHz の周波数帯は、ご存知のとおり、いつものニュースやトーク番組、スポーツ中継を放送している民間 AM 局の周波数帯です。535 kHz 以下の周波数帯は、無指向性無線標識 (NDB: Non-Directional Beacon) と呼ばれる航法援助施設用に予約されています。この無線標識が無指向性と呼ばれるのは、一般の民間放送局と同じように、すべての方向に同じ信号を同じ強度で発信するからです。このビーコンまたは無線送信局の場所を探知するのが ADF の役割です。

昔と変わらず

ループ アンテナの指向特性は、第一次世界大戦当時にはすでに知られており、この時代の各国海軍によって広く使用されていました。また、1930 年代の飛行機の写真を見ると、機首部分に直径 1 フィートほどの輪が取り付けられていることがわかるでしょう。これこそが、ADF の原型となった手動方向探知機です。

基本は変わらず

訓練に使うセスナ スカイホーク 172SP に取り付けられているアンテナは、同じものを電子的に小型化したもので、機体底部にある小さな突起にしか見えませんが、その原理は昔となんら変わりません。

NDB を利用するパイロットのために、NDB は航空図上に記されています。多くの場合、NDB の記号は円形をしており、その中にある小さな円をはん点状の模様が囲んでいます。VOR と同様に、NDB 局にもモールス信号 ID が併記されますが、NDB の場合はアルファベット 1 ~ 3 文字です。

図 1 : マクファーソン空港を囲むはん点状の円から、この空港に NDB があることがわかります。空港の近くには、民間の放送局 (KNGL) もあります。

一部の AM 放送局についても、その位置がコールサインと共に航空図に記載されています。すべての放送局が記載されているのではなく、基本的には 24 時間放送している、電波が強い放送局のみです。

AM 送信機は構造が単純で、比較的安価で保守しやすく、現在でも一部の地域では航空航法システムにおいて大きな役割を果たしています。さらに、AM 送信機が発信する信号は地表に沿って伝わります。見通し範囲を直進する VOR の信号とは異なり、強力な AM 送信機が発信する信号は、ほとんどが山の反対側まで届きます。これが長所です。

短所もあります。それは、この周波数帯の信号は屈曲したりひずんだりしやすく、特に、パイロットが NDB を一番必要とする悪天候時にそれがひどくなることです。旧式の ADF の中には、雷雨の中心部のイオン化された部分を迷うことなく指し示すものさえあります。

次に、これらの原理を応用する機器について、その長所と短所を見ていきましょう。

受信機の操作

想像できたかもしれませんが、ADF を作動させるには OFF-VOL というラベルの付いたスイッチを使用します。また、VOR や COM 無線機と同じく、使用中の周波数とスタンバイ周波数の両方があります。

なお、FLT/ET というラベルのボタンを押すと、スタンバイ周波数に代わって経過時間が表示されます。FLT/ET は、飛行時間 (Flight Time) と経過時間 (Elapsed Time) の略です。スタンバイ周波数の表示に戻すには、中央部にある両方向矢印のボタンを押します。

おわかりだと思いますが、使用中の周波数とスタンバイ周波数は、NAV 無線機や COM 無線機と同じ方法で切り替えることができます。両方向矢印のボタンを押すだけで、周波数が入れ替わります。ADF の周波数を設定するには、NAV および COM の無線機と同様に、右側の二重ノブを使用します。小さなノブを引いて回すと 1 の位が設定され、押し込んで回すと 10 の位が設定されます。大きなノブを使用して、100 の位を設定します。

盤面の下部には、5 つのボタンがあります。右の 2 つのボタンは、時間を設定するボタンです。中央の “周波数入れ替えボタン” についてはすでに説明したとおりです。BFO ボタンは省略し、一番左側の ADF ボタンについて説明します。

ADF は、実際には 1 つのアンテナに 2 つの機能を組み込んだものです。1 つは方向探知で、もう 1 つは通常の AM 無線の受信です。方向探知アンテナが機能しているときは、局識別信号が聞き取りにくくなることがあります。このようなときは、ボタンを押して ANT (アンテナ) の位置にすれば、局識別信号を明瞭に聞き取れるようになります。混乱を避けるために、パネル上の使用中周波数のすぐ左に、ADF または ANT という文字が表示されます。どちらが表示されるかは、ボタンの位置によります。

先ほど省略した、何やらなぞめいた名前の BFO ボタンについて説明しましょう。BFO は、”Beat Frequency Oscillator” (うなり周波数発振器) の略です。送信機によっては、この機能を使用しないと識別信号を聞き取れないことがあります。米国内の送信機に対しては、BFO は必要ありません。ただし、雑音がじゃまをして NDB 識別信号を聞き取れず、ADF が機能していないと思われるときは、方向はもちろんですが、BFO ボタンを調べてください。誤って BFO ボタンが押されてしまった可能性もあります。

局に機首を向ける

VOR 指示器と定針儀を足して 2 で割ったような形のダイヤルに注目してください。見た目は似ていても、この計器の機能は VOR 指示器とも定針儀とも異なります。

中央部には、飛行機を単純化した形のものがありますが、これの考え方は、定針儀にある小さな飛行機と同じです。

このしくみの中心的存在は、中央の長い針で、その先端の矢印は局の方向を指し示しています。これの優れたところは、ダイヤルの中央にある飛行機の向きを基準とした局の位置を指し示すということです。

この針が確かに何かを指しているのか、あるいはたまたまその位置で止まっているだけなのかを知るには、ADF ボタンを押してみます。ANT と表示されているときは、針は自動的に 3 時/9 時の位置で静止します。ADF をもう一度押したときに針が元の方向を指し示したら、正常に機能していることになります。信号が強ければ、針はすぐに元の方向に戻ります。

VOR には、信号を受信できなくなったことを視覚的に示すしくみがありますが、ADF にはありません。正常に機能しているかどうかを確認するには、音を聞き取るしかないのです。といっても、それほど面倒なことではありません。識別信号を調べたら、聞き取りが可能な程度まで音量を下げます。常に聞こえている音を意識することはなくても、それが突然やんだときは、状況が変化したのだということがすぐにわかります。

周囲に刻まれた数字は、今は無視してください。針の指す位置が、盤面の小さな飛行機の機首と右翼の中間にある場合は、あなたが操縦しているセスナ スカイホークの機首と右翼の中間の方向に局があると判断できます。隣の席に座っている同乗者が、局の方角に腕を伸ばして指し示してくれていると考えるとよいでしょう。

ホーミング : 目的地に到達する最も簡単な方法

ここまで読み進んだということは、ADF の基本原理についてはもう理解しているということです。それでは、この原理を踏まえてさらに説明を続けます。

親切な同乗者が指し示した方向にセスナ スカイホークの機首の向きが一致するまで旋回すれば、局に向かっていることになります。ただし、横風があるときは (ないときの方が珍しいのですが)、機体は風に流され、局への直線経路を外れてしまいます。しかし、同乗者が常に局の方向を指していてくれれば、機体を少しずつ旋回させることで常に局がまっすぐ前方にあるように飛行して、最終的には局の上空に到達できます。

そのような親切な同乗者の代わりに ADF の針を使う場合は、このプロセスを “局へのホーミング” といいます。洗練された方法ではありませんし、飛行時間も増えてしまいますが、目的は達成できます。

図 2 : 絶えず旋回して、ADF の針と機首の向きが一致するように飛行していけば、いずれ局に到達します (ホーミング)。洗練されてはいませんが、確実な方法です。

ここまでは、”何も考えずに済む” ADF 航法について説明してきました。より正確な操縦が求められる場合は、方向を指示してくれるのが同乗者または ADF であっても、ただ “向こうの方向に” というのではなく、より正確な方法で方位を教えてもらう必要があります。

答えは簡単ですね。ここまでナビゲーションに使用してきた ADF のダイヤルを回して、機首の向きが  つまり 360°となるようにします。すると、右翼の位置は 090 になり、尾部は 180 に、左翼は 270 になります。これを相対方位方式といいます。何に対して相対的なのでしょうか。航空機の機首を基準とするということです。相対方位のもう 1 つの重要な定義を紹介しましょう。相対方位とは、航空機の機首を局の方位に向けるために右方向に旋回する角度ということができます。もちろん、局が左側にある場合はおかしなことになりますが、実際にそんなことをする人はいないでしょう。

けれども、相対方位とは機首を局の方向に合わせるために右旋回する角度と覚えておけば、ADF の方位にまつわる問題を解決するために面倒な負の数を相手にする必要はなくなります。

定義をもう少し

そのような問題に取り掛かる前に、まず 2 つほど新しい用語の定義を紹介します。

NDB 局に向かう、あるいは NDB 局から離れる方向のことを “方位 (bearing)” といいます。局に向かっている場合は、その方向をインバウンド方位といい、局から離れていく場合はアウトバウンド方位といいます。簡単に言えば、これらは航空図上の局に向かうコース、あるいは局から離れていくコースです。

たとえば、NDB から真東に引いた線は局からの 090°の方位を表し、この線上を局に向かって飛行する場合は、局への 270°の方位となります。方位は、磁方位または真方位のいずれかで表しますが、実際は磁方位が一般的に使われています。ここでは磁方位を使用します。

どの方向に向かうか

たとえば、ADF のダイヤルが相対方位 220°を示しており、定針儀は磁針路 270°を示しているとします。ここで知りたいのは、局に到達するための針路、つまり局への磁方位です。

そう、現在の機首の向きが 270°で、相対方位とはセスナ スカイホークの機首がまっすぐ局に向くようにするために右に旋回する角度ですね。右に旋回しようとすると、角度はかなり大きくなります。これを要約したのが、磁針路 + 相対方位 = 局への磁方位という方程式です。

この例では、270° + 220° = 490°となります。困りましたね。こんな数字はコンパス上にありません。でも心配は無用です。このような場合は、単純に 490°から 360°を引きます。これで、局への磁方位は 130°であることがわかります。

何かごまかしてないかって? そんなことはありません。仮に左に 360°旋回すれば、機首の向きは元に戻りますよね。

でも、このことを常に忘れないでください。針路または方位が 360°より大きくなってしまった場合は、単純に 360 を引き算するということです。

もう 1 つ必要な針路

ADF-NDB 方式を他の方式と比較した場合の最大の欠点は、直感的なわかりやすさに欠けるということです。使いこなすには、頭も使わなければなりません。

いずれにしても、頭を使いたくないからといって、セスナ スカイホークに乗ったまま上空を当てもなくさまよいたくはないでしょう? ちょっと頭を働かせるだけで、この小さなブラック ボックスが目的地への行き方を教えてくれるのです。いかがでしょう。どこにもたどり着けないよりいいですよね。

よろしいでしょうか。それでは、ADF を使って特定の地点に到達したことを知るにはどうすればよいでしょうか。

ある磁方位を通過した時点を知るには

あなたは、クロスカントリー飛行を計画しているとします。コース上のチェックポイントを 1 つ選びましたが、航空図を見ると、そこから数マイル離れたところに民間のラジオ局があります。「よしよし!」心の中で叫びます。「ADF を使えば、このチェックポイントの位置を正確につかめるじゃないか!」

天性のパイロットとして生まれ持った技術を頼りに、セスナの航法定規を航空図に押し当て、1 本の線を引き、偏差を計算して、チェックポイントから局への磁方位が 010°であることを導き出します。これで局への磁方位がわかったことになります。次に知りたいのは、飛行中にいつこの線を越えるかということです。どうしたらいいのでしょうか。

簡単です。磁針路と局への磁方位の組み合わせに対する相対方位を計算すればいいのです。

磁針路 225°で予定どおりに飛行しているとします。ここで知りたいのは、局への磁方位 010°の線をいつ通過するかです。

これには、先ほどの方程式を使って相対方位を求めます。式は、磁方位 – 磁針路 = 相対方位となります。ここに実際の数字を代入してみると、010 – 225 = ……マイナスの方位に進むことになってしまいます。どうしたらよいのでしょうか。

図 3 : 局への磁方位は 010°、磁針路 225°でコースどおりに飛行しています。局への磁方位 010°の線を通過するとき、ADF が示す局への相対方位としては 145°となります。

心配無用です。まず 010 に 360 を足すと、370 になります。370 から 225 を引くと、145 になります。つまり、針路 225°で飛行中に ADF が 145°を示した瞬間に局への磁方位 010°の線を越えたことになります。

針路とは

では、最後の計算式です。あなたは、インバウンド方位 270°をインターセプトしようとしています。相対方位がおよそ 45°になったら、インターセプト ポイントに到達したときに旋回がしやすいと判断したとします。この場合は、どの針路に機首を向ければよいでしょうか。

もう一度方程式を変形してみれば、磁方位 – 相対方位 = 磁針路となることがわかります。つまり、270 – 45 ですから、目的の磁針路は 225°となります。できるだけ注意を払って飛行し、相対方位が 45°に近づいたら、270°への旋回を開始します。

このようなときは、現在地点と目標地点を図に描いてみるとよいでしょう。その後で相対方位を求めます。

秘密を 1 つ

難解な ADF 航法を我慢強くマスターし、頭を使う場面も乗り越えてきました。ごほうびとして、セスナ スカイホークの ADF の秘密の機能を 1 つご紹介しましょう。それほど秘密の機能ではないかもしれませんが、真っ先に紹介するほどのものでもありませんでしたので。

カードは回転可能

セスナ スカイホークのように、ADF のダイヤルにコンパスの主要方位が刻印されているものがあるのは、カードが回転可能なためです。

操縦しているのがセスナ スカイホークならば、ADF カードのノブを回して、現在の針路が指標の下に見えるようにします。中央のパネルを見ると、定針儀と ADF のダイヤルがまったく同じであることがわかります。

このことからわかるのは、ADF の針はもう相対方位を指していないということです。今は、局への磁方位を示しているので、いいですか、計算をしなくてもよいのです。また、針の矢印が付いていないほうの先端は、局からの磁方位を示しています。これは、自分の位置線を作図しようとするときに便利です。

では、例を挙げて説明しましょう。現在、ある VOR の 220°ラジアル上をインバウンドに飛行していますが、現在位置をもう少し正確に求めようとしています。

ADF の針は左を向いています。ADF のカードを回し、定針儀に合わせて 040°に設定すると、ADF の針は 300°を指します。

図 4 : ADF のカードを回して機首の向きに合わせると、選択した NDB または AM 局への方位を、計算を行わなくても直接 ADF で読み取ることができます。

針の矢印の反対側を見れば、局からの磁方位が 120°であることがわかります。NDB からの約 120°の線を描き、VOR ラジアルと交差するところを見れば、そこが現在のおおよその位置です。実にシンプルです。

インバウンドとアウトバウンド

ここで、ある状況を想定してみましょう。あなたの操縦する飛行機と、近くにいる別の飛行機のどちらも、トランスポンダが故障してしまっているとします。ありえない状況かもしれませんが、あくまで仮定です。

したがって、ATC は一次レーダーを使ってあなたの飛行機を特定しようとしますが、こう言うでしょう。「Mugwump NDB アウトバウンド方位 025°を通過しているのはどちらですか?」

図 5 : ADF “A” は、ある局への方位 025°上の位置にいることを示しています。ADF “B” は、その局からの方位 025°上の位置にいることを示しています。

あなたの ADF は図 5 の ADF “A” のようになっており、今は東に向かって飛行しています。別の飛行機の ADF は図 5 の ADF “B” のようになっており、その飛行機も東に向かって飛行しています。Mugwump NDB のアウトバウンド方位 025°の線上を飛行しているのはどちらでしょうか。別の飛行機の ADF を見ると、針の矢印の反対側が 025°を指しているので、その飛行機がアウトバウンド方位 025°を通過していることがわかります。あなたの飛行機は、Mugwump NDB の方位 025°のインバウンド コースを通過しています。

特定の方位に飛行する

ADF を使って、局への特定の方位をインバウンドで飛行することもできますが、止むことのない横風の影響を考慮に入れなければなりません。推測航法を使用して、航空図に引いたコースのとおりに飛行する場合と同じように、横風に向かってクラブ飛行する必要があります。

たとえば、局への磁方位 330°のコースをトラッキングしているときに、右から横風が吹いている場合は、針は 330°を示しますが、これがコースの線であると考えることができます。ダイヤル盤面上の飛行機の機首がはっきりとコースの右を向くように、つまり、わずかに横風の方向に向くようにします。

ただし、1 つ注意が必要です。回転可能な ADF のカードから有益な情報が得られるかどうかは、そのカードの設定と定針儀の針路が一致しているかどうかにかかっています。ADF のカードが正確に定針儀に一致していなければ、カードの数字は何の意味もないただの数字です。

一般的に、+/-2.5°の範囲で針路を維持できれば上出来といえます。つまり、カードを常に設定し直すか、その針路を “通過” しているタイミングを注意して読み取る必要があるということです。

定針儀のように、ADF のダイヤルの針が自動的に回転すればいいのにと思われるかもしれません。実はこのような ADF も存在するのです。これは、無線磁方位指示器 (RMI) と呼ばれるもので、ADF 航法の出現以降、最大の発明といわれています。

しかし、RMI を取り付けるにはコストがかかるので、多くの小型航空機にとっては費用対効果が良くありません。

説明は以上です。ADF について、その問題点も含めて説明してきました。最も難解な部分も理解し、目的地に到達できるようになったことでしょう。また、考え方を簡単にするちょっとしたコツについてもマスターできたのではないでしょうか。