レッスン 6: 着陸


パイロットなら誰もが知っていることわざがあります。これからパイロットとなる皆さんも、このことわざを知っておくと良いでしょう。そのことわざとは、「離陸は選択可能だが、着陸は必須である」というものです。

パイロットにとって着陸は、すばらしい芸術作品と同じくらいの価値があります。レオナルド ダ ビンチのモナリザを鑑賞する人は、そこに華麗な表現を見出だします。パイロットたちは、華麗な着陸によってそれと似たような満足感を味わいます。ここでは、どんな滑走路であっても、美しい絵を描く方法をお見せしましょう。

この講義は、実際の航空機での訓練とは少々違った方法で進めます。トラフィック パターンの飛行について説明するより先に、まず着陸について説明しておこうと思います (トラフィック パターンの飛行については、自家用操縦士のレッスンで扱います)。なぜなら、着陸を先にマスターしておけば、離陸とトラフィック パターンのレッスンの際には、カフェインをとりすぎた蝶のように地表にたたき付けられる心配がないからです。 それに、今ここで着陸について説明しておかないと、さっさと私抜きで練習を始められてしまいそうな気がしてならないんですよ。ですからそうなる前に、ちゃんと一緒に押さえておこうと思うわけです。

私はいつも生徒に言っているんですが、航空機なんて自然に着陸するものなんです (ま、ほとんど自然に、ってことですけどね)。パイロットがするべきことは、航空機を滑走路に少しずつ近づけ、スロットルをほんの少し動かすだけです。では、まず頭の中で航空機を着陸させながら、この操作手順を見ていきましょう。つまり、初めての着陸を想像力で成し遂げてみましょう。

(頭の中での) 初着陸

始める前に言っておきますが、この講義で取り上げる例では、アプローチ速度を 65 ノットとします。ただし、実際の飛行訓練では 75 ノットで行います。 アプローチ速度を速くすると、Flight Simulator での着陸技術が身に付きやすくなるからです。操縦している航空機の、アプローチ速度の参照データを必ずニーボードで確認するようにしてください。

では、想像してください。あなたの航空機は今、地上に長く伸びた滑走路と同一方向に飛行しています。高度は地上 500 フィート、速度 65 ノットでアプローチしつつあるようすを思い浮かべてください。出力はアイドルに設定されています。 イメージの中でピッチを調整して、図 6-1 で示すように速度 65 ノットを維持します。このとき約 10 度の機首上げピッチに調整する必要があります。

図 6-1

もちろんトリムも調整して、速度 65 ノットを維持します。ここからが、このイメージ飛行の最も楽しい部分です。出力はアイドル、速度 65 ノットで、この姿勢を維持しながら接地するまでのようすをイメージしてください。さて、次に何が起こると思いますか?

航空機が着陸したようすをイメージできたなら、大正解です。実際、対気速度 65 ノットを維持できれば、航空機はほとんど自力で着陸します。ただし、滑走路の上に炭素でもあろうものなら、ダイヤモンドに変わるくらいの大きな衝撃を受けます。モグラもびっくりして逃げてしまうくらいのね。この衝撃を除けば、実際の着陸も大きな違いはありません。先ほどのイメージと、実際の上手な着陸とで唯一異なる点は、フレアと呼ばれている操作をかけることです。

実際には、このときパイロットは地上へ向かって航空機を操縦しているわけではありません。着陸寸前にフレアをかけるのです。フレアとは、滑走路へのアプローチ角度を浅くする、つまり緩やかな角度で降下するために、降下経路を変更する操作です。地上 10 ~ 15 フィート上空まで降下したら、フレアを開始します。これについてはもう少し後で説明します。ここでは、上手な着陸の秘訣は、ほとんどの操作を航空機に任せることである、ということを理解しておいてください。つまり、トリムを調整して適正な対気速度にした後は、翼を水平に保つことと、グライド パス (滑空降下経路) を変更するために出力を微調整すること以外、ほとんど何もする必要はないのです。航空機の進行方向を滑走路に合わせておけば、航空機は勝手に着陸してくれます。

着陸の詳細手順

ファイナル アプローチの飛行速度を 65 ノットに設定したのはなぜでしょう。ファイナル アプローチとは、着陸経路の一部で、航空機の進行方向と滑走路方向が一致したときの状態を指します。パイロットが通常使用するファイナル アプローチ速度は、航空機の失速速度より 30% 速い速度です。ここでは、フラップを上げた状態での失速速度は、対気速度計の緑色の弧が始まっている 50 ノットです。したがって、+30% の速度は 65 ノットになります。この速度より少しでも速い速度で飛行すると、航空機は空中に浮いていようとするので、目的の地点に着地できなくなります。これは、新米パイロットがよく直面する最大のミスの 1 つです。逆に、これよりも少し遅い速度で飛行すると、失速速度に近づきすぎるという不安な状況になります。対気速度のコントロールは、着陸を成功させるための最も重要なポイントです。

このレッスンで想定している航空機は、図 6-2 に示すように、速度 65 ノットのときにノーズ ギア (前輪) がメイン ギア (主輪) より少し高い位置に維持されます。

図 6-2

航空機の速度が遅くなるに従って、揚力を維持するためには迎え角を大きくする必要があることを思い出してください。つまり、速度 65 ノットでアプローチするには、迎え角を少し大きくする必要があります。その結果、ノーズ ギアがメイン ギアより高い位置になります。セスナ 172SP は、三輪着陸装置が装備された航空機であることを覚えておいてください。この機体は、まず 2 つのメイン ギアの車輪が着地してから、ノーズ ギアが静かに地上に降りるように設計されています。ノーズ ギアから先に着地してしまうと、損害保険の保険金がおりなくて修理代が自己負担になってしまうかもしれません。また、イルカが水面をかすめて飛ぶように、バウンドを繰り返す状態に陥らないとも限りません。

出力の調節

65 ノット、出力オフで降下するように航空機のトリムを調整したとします。アプローチの段階になり、このアプローチ経路では滑走路まで到達しないことに気付きました。これは好ましい状況ではありません。何しろ、航空機は滑走路の手前にある農地ではなく、滑走路に着陸すべきものなのですから。 そもそも、滑走路より手前に着陸してしまうことが、どうやって事前にわかるのでしょう。そして、この問題を解決するにはどうすればよいでしょう。

滑走路の見え方が図 6-3 の一連の図のように変化するときは、降下が早すぎるということです。

図 6-3A

図 6-3A は、許容範囲内のグライド パスで飛行しているときに、計器パネル越しに見える滑走路です。 図 6-3B は、高度が低すぎる場合 (目標のグライド パスよりも低い場合) の滑走路の見え方です。図 6-3C は、高度が高すぎる場合 (目標のグライド パスよりも高い場合) の滑走路の見え方です。

図 6-3B では、滑走路の向こう側の終端とその先の地平線との間隔が短くなっていることに注意してください。また、滑走路の両端が非常に詰まって見える点にも注意してください。この 2 点は、目標のグライド パスよりも低い高度で飛行していることを示す、視覚的な手掛かりになります。さらに、砂漠特有の低木が自分と同じ高さに見えたり、車輪が砂漠ガメの甲羅をかすめたら、低すぎることはもう確実ですね。

図 6-3B

機械や電子装置を使用せずに、滑走路への適切なグライド パスに沿って飛行しているかどうかを判断するには、練習と経験が必要です。空港によっては、滑走路に対する適切なグライド パスをパイロットが判別できるようにするための装置を備えています。この装置については、次の「進入角指示灯 (VASI)」を参照してください。 着陸のレッスンを初めて行うときは、アプローチ経路より上または下を飛行しているかどうかの判断は、直感でかまいません。これで、本能的な感覚を鍛えることができるでしょう。滑走路に到達する前に車輪のきしむ音が聞こえたら、飛行経路が低すぎます。滑走路が航空機の下に消えてしまった場合は、飛行経路が高すぎます。これ以上簡単な判断方法はありません。少し経験を積めば、正しいグライド パスがわかるようになってきます。大丈夫です、飛行教官である私を信じてください。

図 6-3C

進入角指示灯 (VASI)

視界が悪い状況や夜間の飛行では、機外に視覚的な手掛かりとなるものがないため、着陸時に正しいグライド パスを判断することが困難になります。このようなときに利用できるのが、進入角指示灯 (VASI) です。VASI は、適切なグライド パスを判断する上での視覚的な手掛かりを与えてくれます (ちなみに、VASI は「バジー」と発音します)。

通常、VASI は滑走路に沿って設置された 2 対の柱状の指示装置です。このため、しばしば 2 灯式 VASI と呼ばれます。図 6-13 に示すように、通常、VASI の 2 対の指示灯は、進入端から 500 ~ 1,000 フィートの位置に設置されています。 航空機の高度によって、指示灯は赤色または白色に光って見えます。これらの色は一定で、装置の中にある灯火の色が変化しているわけではありません。飛行高度が変わると VASI を見る角度が変わるため、色が変わって見えるのです。

図 6-13: 2 灯式 VASI (進入角指示灯)

適切なグライド スロープより低い高度でアプローチすると、2 対の VASI の両方が赤色に見えます。危険を知らせるこの信号を、「赤と赤で衝突だ」と覚えるパイロットもいます。この場合は、手前が白、奥が赤に見えるようになるまで、水平飛行する必要があります。手前が白、奥が赤に見えるということは、手前の VASI のグライド パスよりも高く、奥の VASI のグライド パスよりも低い高度で飛行していることを意味します。つまり、2 対の VASI が示すグライド パスの中間にある、着陸できるグライド パスに乗っているということです。この信号は、「白の上に赤で大丈夫」と覚えると良いでしょう。

高度が高すぎると、2 対の VASI がどちらも白く見えます。この信号は、「白と白で視界から消えてしまう」と覚えると良いでしょう。 奥の VASI が赤く見えるようになるまで、降下率を上げます。適切なグライド スロープに対する飛行高度の変化に伴って、VASI の色が赤、ピンク、白または白、赤、ピンクというように変化して見えるはずです。

点滅する白の奥で赤も点滅していたら、そのときはパトカーに向かって降下しているに違いありません。 そんなことになったら、ただじゃ済みませんよ (高速道路で VASI 装置が自動車を追い回すことはまずありませんからね)。

このレッスンで着陸を練習するとき、ブレマートン空港ではグライド スロープを視覚的に判断できる別の施設があることに気付くでしょう。図 6-14 は精密進入経路指示灯 (PAPI) です。4 つのライトが水平に並んでおり、赤と白の目印となる色によって、適切なグライド パスを識別できるようにするものです。グライド パスに応じて、この水平に並んだ 4 つのライトの色が変化して見えます。グライド スロープの角度が 3.5 度を超えているときは、PAPI の 4 つのライトがすべて白く見えます。グライド スロープの角度が 3 度の場合は、右の 2 つが赤、左の 2 つが白に見えます。グライド スロープの角度が 2.5 度以下の場合は、4 つのライトがすべて赤く見えます。2 灯式や 3 灯式の VASI と異なり、赤と白の中間のピンクに見えることはありません。

図 6-14: 精密進入経路指示灯 (PAPI)

高度が低すぎる場合のグライド パスの調整

それでは、高度が低すぎることがわかっている場合は、どうやって高度を修正すればよいのでしょうか。

最初に、高度が低すぎることがわかった時点で出力を上げます。これについては特に説明不要でしょう。図 6-4 に示すように、出力を上げるとすぐに降下率が少し小さくなることに気付くはずです。

図 6-4: 出力を少し上げた状態の VSI (A) とエンジン回転計 (B)
出力を少し下げた状態の VSI (C) とエンジン回転計 (D)

それでは、高度が低すぎることがわかっている場合は、どうやって高度を修正すればよいのでしょうか。

最初に、高度が低すぎることがわかった時点で出力を上げます。これについては特に説明不要でしょう。図 6-4 に示すように、出力を上げるとすぐに降下率が少し小さくなることに気付くはずです。

出力の微調整によって、グライド パスも微調整されるのです。アプローチ速度 65 ノットを維持したまま、航空機を滑走路に着陸させるために必要なだけ出力を上げます。理想的なグライド パスでは、航空機の軌跡は垂直方向に何度も曲がったり、または曲線を描いたりせずに、滑走路に向かってまっすぐ進みます。 もちろん、これは “理想の世界” での話で、現実はそうはいきません。 滑走路に到達するまでに何度も出力を調整して、グライド パスを変更します。

実際のところ、高度が低すぎる場合に、出力を上げて滑走路に向かう通常のグライド パスに乗るまで高度を維持するのは理にかなった操作です。滑走路に向かう通常の滑空を始めるために出力を下げる位置は、これもまた経験を積めばわかります。もちろん、判断を誤って高度があまりにも低くなりすぎた場合は、上昇を開始する必要があります。 滑走路に向かって通常の滑空降下を行うのに十分な高さになったら、出力を下げて降下を開始します。スパゲッティのように曲がりくねった飛行経路になってしまうかもしれませんが、ともかくこの方法でアプローチします (ただし、”アル デンテ” のような歯ごたえを残した着陸を覚悟しておいてください)。あらゆる操作を行って、なんとしても滑走路へと着陸させましょう。トリムを使用することも忘れないように。

では、高度が高すぎた場合はどうすればよいでしょうか。これについては、もう少し後で説明します。今はまず先に、着陸時に航空機をフレアさせる方法について見ていきましょう。

フレア

ここまで、65 ノットのファイナル アプローチ速度で滑走路に向かって飛行するようすをイメージしてきました。実際の航空機を操縦するときもこの方法で着陸できないことはありませんが、あくまでそれは緊急事態の場合に限られます。シミュレーション上の航空機は、65 ノットで最小許容着陸姿勢を取ります。つまり、機首上げ方向にピッチが調整され、ノーズ ギア (前輪) がメイン ギア (主輪) より高く位置する姿勢になります。これが適切な姿勢です。また、このシミュレーションでは降下率がそれほど大きくないため、着陸時に乗客が怪我をするようなことはありません。ただし、本物の航空機では着陸時にダメージを受ける可能性があります。したがって、あらゆる条件下で正しく着陸するには、航空機をフレアさせることを学習して、ソフトで安全な着地が確実にできるようにする必要があります。

図 6-5 に示すように、滑走路から 10 ~ 15 フィート上空で着陸フレアを開始してください。

図 6-5

目標のアプローチ速度で降下しながら、ジョイスティックをゆっくりと少しだけ手前に引いて機首を上げ、フレアを開始します。どのくらいジョイスティックを引けばよいのでしょうか。これもまた経験を積むしかありません。フレアの目的は、降下の角度を浅くすることと、着陸時の対気速度を下げることです。フレアをかけると、航空機は降下率を下げ、わずかに機首を上げた姿勢で、滑走路上空の適切な位置につくことができます。この状態ならば、図 6-6 に示すように、ノーズ ギアがメイン ギアよりも高い位置にある状態で、滑らかに着地できます。

図 6-6

アプローチ速度が速すぎる場合 (つまり、その航空機の失速速度より 30% 以上速い速度の場合)、フレアをかけると航空機は空中に浮いたままか、さらに上昇してしまう可能性があります。アプローチでは、このような状況に陥るべきではありません。航空機が浮いているということは、絶対に着陸できないということです。よっぽど距離の長い滑走路でない限り、このままの状態では空港を囲むフェンスをなぎ倒して、高価な航空機がオフロード車と化してしまうでしょう。フレア中にジョイスティックを急な動作で手前に引くと、滑走路から 50 ~ 100 フィート上空まで上昇し、対気速度のみならず判断力まで失ってしまいます。このような場合は、出力を上げ、機首を少し下げて、もう一度フレアをかけられる高度まで降下します。さもないと、航空機が失速するおそれがあります。 地上からわずか 100 フィートの上空で失速の訓練を行うなんて、とんでもない暴挙です。修理代は自己負担ですからね。フレア中に失速が許されるのは、航空機が地上から数インチの高さまで降下したときだけです。落下する距離が数インチなら、機体にも乗客にも被害を与えませんからね。フレアはちょっとしたタイミングを必要とします。ただし、フレアをかける方法にはたくさんのバリエーションがあります。

機体が上空 10 ~ 15 フィートのフレア開始位置に差しかかったことを確認するには、どうすればよいでしょうか。実際の航空機では、周囲の景色を見て判断します。しかし、このシミュレータの標準のコックピットからの視界では、側面の窓がないため、そこからの景色を見て判断することができません。しかし、[仮想コックピット] 表示ウィンドウでは、ジョイスティックの上部にあるハット スイッチを使用して、あらゆる方向へ視界をパン (移動) することができます。ぜひ、お試しあれ! [表示] メニューをクリックし、[表示ウィンドウ オプション] をクリックして、[仮想コックピット] をクリックします。

練習を積めば、標準のコックピットからでも、滑走路からの高さを判断できるようになります。また、滑走路の高度、つまり空港の標高を利用することもできます。たとえば、空港の標高が海抜 2,787 フィートであるとします。この場合、高度計が 2,800 フィートを示した位置でフレアをかけ始めればよいのです。ただし、いうまでもありませんが、この方法が通用するのはシミュレーションで着陸を練習する場合のみです。現実にパイロットとなったあかつきに本物の航空機を着陸させるときには、この方法は使用できません。副操縦士を不安におとしいれるだけですからね。

フレアをかけるタイミングがつかみにくい場合に、滑らかな着陸を行うためのヒントがもう 1 つあります。フレアをかける高度に近づいたと思ったら、図 6-7 に示すように出力を上げて、アプローチ速度を維持しながら、降下率を毎分 100 フィートまで下げるのです。

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これは、さざ波ひとつ見えないガラスのような湖水面に、水上機を着陸させる方法と似ています。鏡のように反射する湖面の上で高度を判断するのは困難ですが、アプローチ速度で毎分 100 フィートの降下率を維持できれば、航空機はなんとか無事に着水できます (泳いでいるマスの頭に一撃を加えることはありません)。この方法で滑走路へアプローチする場合、出力を上げた分だけ着陸距離は長くなります。ですから、必ず滑走路の長さが十分あることを確認してから行ってください。

通常は、フレアをかけ始めるときは出力をアイドルまで徐々に下げる必要があります。次に、機首をゆっくりと上げてフレアの姿勢にし、航空機がこの姿勢のまま滑走路へ着地できるようにします。機首をどの程度上げたらよいかわからない場合は、水平儀でピッチ姿勢が 14 度になるように機首を上げてみます。航空機はこの姿勢で滑走路に着地します。航空機の速度はどんどん下がっていくので、フレアの機首上げ姿勢を維持するため、ジョイスティックをさらに手前に引きます。着地後は、ジョイスティックに加えている力を静かに緩めて、ノーズ ギアを滑走路に降ろします (航空機は、ノーズ ギアによって着陸後の方向制御を行います)。

通常、フレアをかけ始めると、計器パネル越しに見えていた滑走路が見えなくなります。実際の航空機では、見やすくするために操縦席を高くすることも可能です。しかし、これは教官の膝の上に座るということではありませんよ。この Flight Simulator では、ジャッキや教官の膝の助けを借りて視界を良くすることはできません。操縦席を高くするには、Shift + Enter キーを押します。大丈夫、この操縦席は脱出用の射出座席ではありません。 最もよく見える位置まで操縦席を高くしてください。操縦席を低くするには、Shift + BackSpace キーを押します。

完璧です。フレアのコツが身に付きましたね。フレアをマスターするには、もちろん技術も必要ですが、練習を積めばやがて習得できるでしょう。これでフレアについては理解できたと思いますので、今度はフル フラップの状態でフレアをかける方法について説明します。フラップはどんな場合に使用するのでしょう。フラップは、航空機の高度が高すぎるために、降下率と降下角を大きくしなければならない場合に使用します。フラップを使った着陸方法を説明する前に、まずフラップそのものについて詳しく説明しましょう。

フラップ、フラップ

大型の旅客機に乗ったときに、離陸と着陸の前になぜ翼からアルミニウム製の物体が出てくるのか考えたことがありますか? 少しでも速いスピードを求める乗客が満足する速度を実現するために、高速で飛ぶ航空機の翼は、小さく、かつ薄くなければなりません。小さく薄い翼の問題点は、比較的速い速度で失速することです。一時的に低速で飛行できる翼にするには、十分な翼面積と湾曲率が必要になります。でないと、ほとんどのジェット旅客機は、失速に陥る危険を避けるために、時速 200 マイル近い速度で離着陸を行わなければならなくなります。 そこで、エンジニアたちは、翼にフラップを取り付けることによって、この問題を解決しました。フラップの上げ下げによって、翼の揚力と抗力が変化します。

フラップを下げると、図 6-8 に示すように翼の後縁が下がります。

図 6-8: フラップによる翼の湾曲率の変化
A – 翼が少し湾曲している状態 B – フラップによって翼の湾曲率が大きくなった状態。

翼の揚力は、2 つの点で増加します。まず、後縁が下がったために翼弦線と相対風との間の角度が大きくなります。迎え角が大きくなると揚力が増加します。次に、後縁が下がったことで、翼の一部の湾曲率が高くなり、翼の上面を流れる空気の速度が上がります。セスナ 172SP のように、数段階刻みで使用できるフラップが装備されている場合は、フラップをさらに外側に下げると翼の上面の面積が大きくなります。このように、フラップによって迎え角と湾曲率が増加するため、同じ対気速度では揚力が増加します。

では、なぜ小型航空機にフラップを取り付けるのでしょうか。何よりまず、対気速度が遅くても、飛行し続けるために必要な揚力を生み出すことができます。着陸時の目標は、適度に遅い速度でアプローチして、着地することです。巡航速度で着地しようとは思わないでしょう。巡航速度のような高速で着陸すれば、タイヤは燃え尽きて煙と化してしまいます。フラップを使用することで、失速を避けるのに十分な余裕を維持しつつ、かつ比較的低い速度で、アプローチおよび着陸を行うことができます。

低速で着地するということは、停止するまでの距離が短くなるということです。これは、滑走路が短い場合には特に重視すべき点です。ただし、突風が吹いている場合は、フラップを少しだけ下げるか、またはまったく下げない状態でアプローチする方法もあります。これは、フラップによって速度を下げると、操縦装置の反応が鈍くなり、航空機の操縦がより難しくなるからです。フラップによって揚力が効果的に増加するしくみを、対気速度計を見ながら説明しましょう (図 6-9)。

図 6-9: フラップの状態と許容速度の範囲
A – フラップを下げた状態では 53 ノット (白い弧の始点)
B – フラップを格納した状態では 60 ノット (緑色の弧の始点)

白い弧 (B) の始点は、航空機の最大許容重量で加速なしの状態で、出力オフ、フル フラップ時の失速速度です。 つまり、フラップを完全に下げ、出力をオフにして、着陸装置を下げた状態で航空機が失速する速度です。図 6-9 では、翼の迎え角が臨界迎え角よりも小さい状態で、翼の上側に風速 53 ノットの風が吹いていれば、航空機は飛行できます。

白い弧の終点 (最高速度点) は、フラップを完全に下げた状態で飛行できる最大速度を示します。飛行速度がこれを超えると、フラップが損傷する場合があります。図 6-9 の例では、フラップを下げた状態で対気速度計が 107 ノットよりも大きい値を示すことがないようにします (ただし、航空機によっては、フラップを途中まで下げた状態では、これより速い速度で飛行することができます)。たとえレンタルした航空機でも、フライトから戻ったときに損傷やへこみがあったら良くありません (機体のへこみを直す修理代の請求書を受け取ったときに、それがどれほど良くないことかを思い知るでしょう)。

(B) の白い弧が、(A) の緑色の弧よりも 7 ノット遅い位置から始まっていることに注意してください。緑色の弧が、フラップと着陸装置を上げた状態での、出力オフの場合の失速速度であることはすでに説明しました。この航空機がフラップを上げた状態で飛行するには、翼に 60 ノット以上の風を受ける必要があります。フラップが完全に下がった状態では、より遅い速度、もっと正確にいうなら 7 ノット遅い速度で着地できます (なお、対気速度計に示されるフル フラップでの失速速度は、航空機が最大許容重量で飛行中であることを前提としています)。

ただし、昔から言われているように、代価を支払わずにタダで手に入るものなどありません。フラップによって揚力を得ることができますが、同時に抗力も発生します。つまり、フル フラップの翼では、速度が下がります。試しに加速してみてください。ある時点で、抗力によって加速が打ち消されます。通常、フラップの下げ幅が半分までなら、発生する抗力よりも揚力の方が大きくなります。そこからさらにフラップを下げると、揚力よりも抗力が大きくなります。このため、航空機の操縦マニュアルの中には、短い滑走路での離陸時はフラップを 10 ~ 25 度 (3 ~ 4 個の目盛りがある手動のフラップ レバーでは、通常目盛り 1 つまたは 2 つ分) にするよう推奨しているものもあります。

アプローチ時に高度が高すぎる場合は、フル フラップにして航空機の抗力を増加させることができます。 通常、トラフィック パターン内で降下するときにのみフラップを使用し、巡航飛行から降下するときは、フラップは使用しません。巡航飛行からの降下では抗力が大きくなるため、高速で、すばやく効率的に降下できます。 巡航飛行からフラップを使用して降下するには、フラップを下げる前に、フラップ使用時の最大許容速度 (白い弧の終点) よりも低い速度まで減速する必要があります。この操作は厄介でしょう。出力を下げて巡航速度で降下すると、より早く降下できるので、目的地へより早く到着できます。

低速時はフラップによって揚力が増加しているので、飛行中にフラップを上げる時期とその程度については、慎重に考えてください。フル フラップでのアプローチ中にゴー アラウンドする必要がある場合、つまりアプローチをあきらめて上昇し、再度着陸を試みる場合は、一度にフラップを完全に上げてはいけませんよ。これは、低速で飛行している航空機の翼の一部を取り去ってしまうようなものです。失速速度が突然上がるため、安全な速度まで加速する前に、航空機が失速に近い状態になってしまいます。出力を全開にしてから、フラップを徐々に上げていきましょう。フラップが下がる角度が 30 ~ 40 度の航空機では、抗力が最小で揚力が最大になる位置までフラップを上げます。この位置は機種によって異なりますが、通常はフラップを完全に下げた位置から半分だけ上げた位置です。手動フラップ レバーの目盛りが 3 つの航空機の場合は、最初に 1 目盛りだけ上げます。航空機が加速し始めたら、次に 2 目盛り分上げます。

フラップを使用した着陸

フラップを下げるには、フラップ レバー (図 6-10) を使用するか、F7 キーを押します。フラップを上げるには、F6 キーを押します。

図 6-10

フラップによって翼の揚力と抗力が変化するので、目的の対気速度を維持するためには、ピッチを調整する必要があります。フル フラップにすると大きな抗力が生じます。その上、航空機の機首が上に向くので、対気速度を維持するにはジョイスティックを前方に押す必要があります。次に、高度が高すぎる場合に、フラップを下げて高度を修正する手順について説明します。

この航空機のフル フラップ時の失速速度は 40 ノット (対気速度計の白い弧の始点) なので、やや速い速度でアプローチします。航空機の現在の体勢での失速速度より、30% 速い速度でアプローチを行うことを思い出してください。ここでは 60 ノットを使用することにします。

65 ノットでフラップを使用せずにアプローチしているときに、図 6-11 のように航空機の計器パネル越しに滑走路が隠れていくのに気付いたとします。

図 6-11

これは、アプローチ高度が高すぎることを示す 1 つの手掛かりになります。ここでフラップを下げます (すでに下げている場合は、さらに下げます)。F7 キーを 1 回押して、フラップを 10 度下げます。また、フラップによって生じたピッチ アップを修正するため、ジョイスティックを前に押す力を少し強めて、53 ノットのファイナル アプローチ速度になるようにピッチを再調整します。トリムの調整を忘れないでください。

F7 キーをさらに 2 回押し、フラップを 10 度ずつ下げて 30 度にします。これで、この航空機はフラップを完全に下げた状態になります。F7 キーを押したら、必ずピッチ調整を行って 60 ノットの対気速度を維持します。

フラップが十分下がると、滑走路は機体の下に隠れていかなくなるでしょう。航空機のピッチがやや小さくなったので、滑走路がよく見えるようになりました。それにつれて降下率も上がります。図 6-12 に示すように、航空機は、フラップを使用したことによって機首の上がり具合が少し抑えられた状態で飛行します。フラップを使用すると、ノーズ ギアはメイン ギアよりそれほど高い位置になりません。これも、フレアが必要な理由の 1 つです。

図 6-12

フラップを使用すると、まず降下率が大きくなることに気付きます。 このため、フラップを使用するときは、フレアを少し早めにかける必要があります。フレアをかける高度になったら、機首を上げて現在の姿勢から約 14 度機首上げのピッチ姿勢にします。その姿勢を着地まで維持します。着地するときに失速警報が鳴ることがありますが、この時点では機体は地上から数インチしか離れていないため、特に気にする必要はありません (失速警報については、失速に関する講義で詳しく説明します)。

フラップはなぜ使用するのでしょうか。フラップを使用すれば、より遅い速度で着地できるようになります。つまり、停止するために必要なエネルギーが少なくて済むのです。その上、アプローチ高度が高すぎるときにフラップは非常に便利です。 また、障害物を越えて着陸しなければならない場合や、滑走路が短い場合にもフラップが役に立ちます。

このレッスンで、訓練操縦士としての基本的な訓練は終わりです。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

着陸に関する 2 つのレッスンを完了したら、いよいよ単独飛行です。そして、自家用操縦士のレッスンに進みましょう。新しい冒険を求めて、大空へ 1 人で飛び出す準備をしてください。

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