ピストン エンジン


ピストン エンジンのしくみを学ぶ

エンジンに関する基本的なしくみをいくつか理解することで、パイロットはより効率的にエンジンを操作し、動力装置の寿命を伸ばすことができます。また、エンジン故障の防止にもつながります。

ピストン エンジンの基本的なしくみ

レシプロ ピストン エンジンは、一般的な航空機で最も多く利用されている動力装置です。このエンジンは、自動車のエンジンとほとんど変わりませんが、以下の 3 つの点で区別されます。

  1. 航空機のエンジンはほとんどが空冷式です。空冷式の場合、ラジエータと冷却液が必要ないためその分の重量が軽減でき、安全性も高まります。液冷式エンジンでは、冷却液の量が減少したり冷却システムが故障すると、直ちにエンジン故障につながります。
  2. 航空機のエンジンは二重点火システムです。このシステムでは、スパーク (電気の火花) を作るためのエネルギーがマグネトーによって生成されます。 マグネトーは、航空機のバッテリとは関係なく、クランク軸によって回転します。各シリンダにも 2 つずつ点火プラグがあります。一方のプラグまたはマグネトーが故障しても、もう一方がスパークを生成して燃料を燃焼させます。
  3. 航空機のエンジンはさまざまな高度で使用されるため、制御装置として手動の混合気コントロールが備えられています。航空機の上昇および降下時に燃料と空気の混合比が適正に保たれるように、パイロットは混合気コントロールを手動で調整します。

ピストン エンジンの 4 サイクル

一般的なピストン エンジンは、以下の 4 サイクルで動作します。

吸気 : シリンダ内でピストンが下へ動き、開いている吸気バルブから燃料と空気を吸い込みます。

圧縮 : シリンダ内の吸気バルブおよび排気バルブが閉じ、シリンダ内のピストンが上に動いて、燃料と空気の混合気を圧縮します。

爆発 : シリンダ内のピストンが最上部にあるときに、点火システムからの放電によって点火プラグでスパークが生成されます。スパークは空気と燃料の混合気に点火します。混合気は、爆発的な燃焼によって急速に膨張します。この膨張の力でシリンダ内のピストンが下に戻ります。ピストンが下に動くことによりクランク軸が回転し、プロペラが回転します。

排気 : ピストンがシリンダ内の最下部に達したときに排気バルブが開きます。シリンダ内のピストンが再び上に動き、燃焼したガスをシリンダの外に排出します。

各シリンダがこの 4 サイクルを順に繰り返し、少なくとも 1 つのピストンが常に出力を生み出しています。

キャブレターと燃料噴射装置

航空機に搭載されているピストン エンジンのほとんどが、キャブレターまたは燃料噴射システムで燃料と空気をシリンダに送り込んでいます。キャブレターは、燃料と空気を混合してからシリンダに送り込みます。比較的低コスト機構であるため、小型エンジンでよく使用されます。大型エンジンは通常、燃料噴射システムを採用しています。このシステムでは、燃料を直接シリンダに噴射し、吸気中に空気と混合します。

点火システム

点火システムは、ピストン エンジンのシリンダ内で、空気と燃料の混合物に点火するためのスパークを生成します。 現代の航空機のエンジンのほとんどが、スパークの生成にマグネトーを使用しています。マグネトーは、最新の自動車で採用されている電子点火システムほど精巧ではありません。しかし、航空機においては以下の理由で有用です。

  • エンジンが高速で作動しているとき、自動車に搭載されているバッテリ システムよりも強力なスパークを生成できます。
  • バッテリ、ジェネレータ、オルタネータなどの外部のエネルギー源に依存していません。

エンジンの始動

マグネトーが回転すると電気が発生します。したがって、エンジンを始動させるには、パイロットがバッテリ駆動のスターターをオンにして、クランク軸を回転させる必要があります。 マグネトーが回転し始めると、そのマグネトーは各シリンダにスパークを供給し、空気と燃料の混合気に点火します。そして、スターター システムがオフになります。エンジンがかかれば、バッテリはもう必要ありません。バッテリ (マスター) スイッチをオフにしても、エンジンは動作し続けます。

二重点火

航空機のエンジンのほとんどが二重点火システムを備えています。このシステムでは、2 つのマグネトーが、各シリンダにある 2 つの点火プラグに電流を供給します。つまり、各マグネトー システムが、それぞれのプラグ セットに電流を供給するのです。これが、セスナ スカイホーク 172SP の点火/マグネトー スイッチ (MAGNETOS と書かれています) に、OFFR ()、L ()、BOTH (両方)、および START の 5 つの位置がある理由です。スイッチを “L” または “R” の位置にすると、一方のマグネトーのみが電流を供給し、一組の点火プラグだけが着火します。”BOTH” の位置にすると、両方のマグネトーが電流を供給し、両方の点火プラグ セットが着火します。

二重点火の利点

二重点火システムによって航空機の安全性と効率性が高まります。

  • 一方のマグネトー システムが故障しても、安全に着陸できるようにエンジンを動作させることができます。
  • 点火プラグが 2 つあることにより混合気の燃焼性が上がり、パフォーマンスが向上します。

点火システムの操作

エンジンが始動したら点火/マグネトー スイッチを “BOTH” の位置に設定します。飛行中は “BOTH” のままにしておきます。エンジンを停止したら “OFF” にします。点火/マグネトー スイッチが “BOTH”(または “L” か “R”) の位置にあるときは、外側からプロペラを動かせば、電気系統のマスター スイッチがオフでもエンジンは始動します。

離陸前の点検

両方の点火システムが適正に動作しているかを確かめるには、離陸前のエンジンの準備運転中に各システムを点検します。通常の手順では、出力を 1,700 RPM に設定します。まず、点火/マグネトー スイッチを “BOTH” から “R” に変更し、”BOTH” に戻します。次に、”L” に設定し、再び “BOTH” に戻します。”BOTH” から “R” または “L” に切り替えるときに、回転数がわずかに低下します。両方のマグネトーが問題なく機能していれば、回転数の低下は 75 RPM より小さいはずです。

エンジンの停止

点火/マグネトー スイッチを OFF に回して、ピストン エンジンを停止するのは避けてください。混合気コントロールをアイドル カットオフ (全閉) にして、シリンダへの燃料供給を止めます。エンジンが停止したら、点火/マグネトー スイッチを “OFF” にします。これは、シリンダ内の燃料がきれいに排出することと、誰かが誤ってプロペラを回した場合や、シリンダ内の炭素の堆積物が部分的に残留燃料の着火点まで上昇した場合に、エンジンが誤って始動することを防ぐための手順です。

ピストン エンジン制御装置

現代のピストン エンジンのほとんどが、2 つまたは 3 つの基本制御装置を備えています。

  • スロットル : 出力に最も直接的に影響する制御装置です。
  • プロペラ コントロール : (定速プロペラを備えた航空機の場合) プロペラの回転速度を調整します。この速度は、1 分間あたりの回転数 (RPM) で表されます。
  • 混合気コントロール : 航空機の上昇および降下時に、空気と燃料の混合比を調整します。

キャブレター エンジンにはキャブレター ヒートも用意されています。キャブレター ヒートは、キャブレターの凍結を防いだり、凍結したキャブレター内の氷を溶かしたりもします。 200 馬力を超えるエンジンでは、通常はパイロットがカウル フラップを使用して、エンジンの周囲を流れる冷たい空気の量を調整することができます。離陸時や長時間の上昇時のように、特に高出力が必要な場合にはカウル フラップを開くことがとても重要です。

プロペラ

一般に、ピストン エンジンには固定ピッチ プロペラまたは定速プロペラが装着されています。

固定ピッチ プロペラは、エンジンのクランク軸にボルトで直接固定されており、常にエンジンと同じ速度で回転します。この固定ピッチ プロペラは、歯車が 1 つしかないトランスミッションに似ています。エンジン効率の良い構造ではありませんが、それと引き換えに操作が非常に単純です。注意を払う必要がある計器はエンジン回転計だけです。

定速プロペラには、選択した回転数を維持するために、自動的にプロペラ ピッチ (ねじれ角) を調節するガバナー (調速機) が装備されています。このプロペラを使用すると、エンジン出力をより有効に使用できます。離陸時のように低速で最大出力が必要な場合は、プロペラ コントロールで回転数を最大 “Full Increase” に設定し、小さな角度でプロペラの羽根が空気と当たるようにします。巡航中は低い回転数の設定に調整して、遅い速度でもより多くの空気と当たるように羽根の角度を大きくします。

出力の管理

固定ピッチ プロペラを使用する場合、出力の管理は単純です。スロットルを押し込むと、回転数 (および出力) は増加します。スロットルを手前に引くと、回転数は減少します。ただし、回転数は対気速度が増加するにつれて徐々に増大することがあるので注意が必要です。高速で降下する場合は、エンジン回転計を注意深く監視し、回転数が制限範囲内であることを確認するようにします。

定速プロペラでは、出力管理はやや複雑になります。吸気圧力計と回転計には十分に注意を払ってください。吸気圧力計はスロットルによって制御され、回転計にはプロペラの回転数が表示されます。回転数を調整するには、プロペラ コントロールを使用します。

定速プロペラで出力を設定するときは、エンジンに過剰な負荷をかけないために、次の基本ルールを覚えておく必要があります。

出力を増加させるには

  1. プロペラ コントロールを押し込んでプロペラの回転数を上げます。
  2. スロットルで吸気圧を増加させます。

出力を減少させるには

  1. スロットルで吸気圧を減少させます。
  2. プロペラ コントロールでプロペラの回転数を下げます。

キャブレター付きエンジン

多くの航空機は、キャブレターを使って空気と燃料を混合し、シリンダ内で燃焼する燃焼混合気を作ります。

キャブレターのしくみ

外気は、フィルタを通ってキャブレターに流入します。その際、空気はキャブレター内の狭くなっているベンチュリ管を通ります。ベンチュリ管の中の空気は加速し、ベルヌーイの定理に従って圧力が下がります。その負圧によって燃料がノズルから空気の流れへと引き込まれ、そこで空気と混合されます。そして、空気と燃料の混合気が吸気マニフォルドに流入し、各シリンダに送られます。

適正な比率

キャブレターは、重量を基準にして空気と燃料を混合します。ピストン エンジンでは、通常、空気と燃料の比率が約 15:1 のときに最大出力が生み出されます。キャブレターは、海面上の気圧を基準にして、混合気コントロールが最も濃い状態に設定されているときに、適正な量の燃料を送り込むように調整されています。しかし、高度が上がると空気の密度が低下します。これを修正するには、パイロットが混合気コントロールを使って、燃料室に入り込む空気と燃料の混合気を調整します。

キャブレターのほとんどが、燃料室のフロートを使って、空気と混合する燃料の量を制御します。フロートに付いている針が燃料系統を開閉して、キャブレターに送り込む燃料の適正な量を測定します。フロートの位置はフロート室の燃料の量によって制御されています。この位置によって、バルブの開閉のタイミングが決まります。

濃い混合気

空気と燃料の混合気が濃すぎる (含有する燃料が多すぎる) 場合は、燃料消費が激しくなり、エンジンの状態も悪くなり、出力も低下します。 この状態でエンジンを動作させると、エンジンの温度が下がり、燃料室の温度が通常よりも低くなります。これは点火プラグの汚れやその他のトラブルにつながります。

薄い混合気

混合気の濃度が薄すぎる (現在の空気の重量に対して燃料が少なすぎる) 場合は、エンジンの調子が悪くなったり、異常燃焼 (デトネーション) やオーバーヒートを引き起こしたりして、出力が低下します。

キャブレター アイシング

キャブレター内の燃料が気化して空気が膨張すると、空気と燃料の混合物が急速に冷却されます。その温度は瞬間的に華氏 60° (摂氏 15°) も低下する場合があります。これにより空気中の水分が凝結し、キャブレター内の温度が摂氏 0° (華氏 32°) に達するとキャブレター内部に付着した水分が凍結します。 わずかな着氷であっても、キャブレターへの空気の流れは制限され、出力が低下します。 特にスロットルを一部または完全に閉じているときにキャブレター アイシングが発生すると、エンジンがまったく動かなくなってしまう場合があります。

着氷状態

空気が乾燥している場合、あるいは温度が摂氏 0°を大きく下回っている場合は、大気中の水分によってキャブレター アイシングが発生することはありません。しかし、温度が摂氏 – 7 ° (華氏 20°) ~摂氏 21° (華氏 70°) で湿気が高い条件では、パイロットはキャブレター アイシングに対して常に警戒していなければなりません。

キャブレター アイシングの兆候

固定ピッチ プロペラの航空機の場合、キャブレター アイシングを示す最初の兆候として、エンジン回転計の回転数が低下します。可変ピッチ (定速) プロペラの航空機の場合、通常は、吸気圧力が落ち込みます。両方の航空機に共通するのは、エンジンが不調になる可能性があることです。なお、定速プロペラの航空機のプロペラ回転数は、キャブレター アイシングが発生しても変化がありません。

キャブレター アイシングへの対処

キャブレターには、キャブレター アイシングを防止し、付着した氷を取り除くためのヒーターが備えられています。このヒーターは、キャブレターに送り込まれる前の空気を暖めます。そして、吸気管に入り込む氷や雪、キャブレター内に付着し少量の氷などを溶かし、空気と燃料の混合気の温度を摂氏 0°より高い温度に保ってキャブレター アイシングを防ぎます。

キャブレター ヒートの使用

キャブレター アイシングが発生しそうな条件で飛行しているときは、エンジン計器を監視して着氷の兆候を見逃さないようにします。キャブレター アイシングが発生していると思われる場合は、すぐにすべてのキャブレター ヒートをオンにして暖めます。そして、氷がすべて取り除かれたことが判明できるまでオンのままにしておきます。部分的に暖めたり、暖める時間が短すぎたりすると、かえって状況を悪化させることにもなりかねません。

最初にキャブレター ヒートをオンにするとき、固定ピッチ プロペラの航空機では回転数が下がります。定速プロペラの航空機の場合は吸気圧が低下します。キャブレター アイシングが発生していなければ、キャブレター ヒートをオフにするまで、回転数または吸気圧は通常よりも低い状態のまま保たれます。キャブレター アイシングが発生している場合は、回転数または吸気圧が一時的に下がってから上昇します。さらに、多くの場合、エンジンの調子が断続的に悪くなります。 キャブレター ヒートをオフにすると、オンにする前の状態よりも回転数または吸気圧の値が上がります。 氷が溶けたら、エンジンの調子もよくなるはずです。

キャブレター アイシングが極端に多い場合は、それ以上着氷しないように、氷が取り除かれてからもキャブレター ヒートをしばらくオンにしておく必要があります。

予防策としてのキャブレター ヒート

飛行中、スロットルが閉じている場合は常に、特に着陸しようとしているときは、エンジンが急速に冷やされ、エンジンが暖かいときに比べると燃料の気化が十分でなくなります。キャブレター アイシングが発生していると思われる場合は、すべてのキャブレター ヒートをオンにしてからスロットルを閉じます。キャブレター ヒートはしばらくオンのままにしておきます。

より大きな出力

キャブレター ヒートを使用すると、エンジン出力が低下しエンジンの温度が上昇する傾向があります。したがって、最大出力が必要なとき (離陸中など) はキャブレター ヒートを使用しないようにしてください。また、通常の状態でエンジンを動作させているときも、キャブレター アイシングが発生しているかどうかを確認するとき以外は使用しないでください。

燃料噴射式エンジン

200 馬力を超えるピストン エンジンでは、キャブレターよりも燃料噴射システムの方が多く採用されています。

燃料噴射システムには、燃料を直接シリンダに噴射するものと、吸気バルブの直前に噴射するものがあります。噴射された燃料は、シリンダ内で空気と混合されます。このシステムは、高圧ポンプや空気/燃料コントロール装置、燃料分配器、および各シリンダの噴射ノズルを必要とするため、一般にキャブレターよりも高価になります。

燃料の流れは、キャブレター付きエンジンと同じように混合気コントロールを使ってパイロットが制御します。

燃料噴射エンジンの利点

燃料噴射エンジンはキャブレター燃料システムに比べると高コストで複雑ですが、それを補うだけのいくつかの利点があります。

  • キャブレター アイシングの可能性がない。ただし、大気中の氷によって吸気管がふさがれることがあります。
  • 燃料がスムーズに流れる。
  • スロットルへの応答が速い。
  • 混合気を正確に制御できる。
  • 燃料配分に優れている。
  • 低温時にエンジンがかかりやすい。

燃料噴射エンジンの欠点

もちろん、燃料噴射システムには欠点もあります。その中で特に気を付ける必要があるものを次に示します。

  • 熱くなったエンジンを始動させるのが難しい。
  • 気温が高いときの地上操作では、水蒸気によってシステムに支障が出る。
  • 燃料切れでエンジンが止まった場合にエンジンの再始動が難しい。

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