単独飛行: 横風着陸


風見鶏と滑走路の共通点は何でしょうか。答えは「何もない」です。風見鶏は変化する風に合わせて動きますが、滑走路は地面にがっちりと固定されているので動きません。これはどうしようもありません。ここで問題となるのは、パイロットは風上に向かって着陸するのを好む、ということです。風に逆らって着陸すれば、遅い対地速度で着地でき、航空機をコントロールしやすくなるからです。そしてもちろん、パイロットは滑走路に着陸したいとも思っています。したがって、風が滑走路の横から吹いている場合でも、その条件下で着陸するしかありません。これを “横風着陸” と呼びます。ここでは、横風着陸を実行する場合に役に立つヒントと、いくつかのテクニックについて学びましょう。

ここからの説明では、ラダー ペダルが接続されているか、またはジョイスティックにラダー機能が付いていると仮定して進めていきます。横風着陸を実行するためには、これらの機器または機能が必須です。 ない場合は、テンキーの 0 キーと Enter キーを使用してラダーを操作してください。 指と足とでは少し勝手が違いますが、それでもラダー操作はできます。ただし、話がややこしくならないよう、この講義ではラダー ペダルの操作方法を説明していきます。

横風の難問

横風の中での着陸の学習では、ここまでの講義で学習したことのほかに、いくつかのテクニックを学ぶだけです。これまでに、着陸の基本はすべて頭に刻み込まれているはずです。ですから、ここで行うのは、完璧なパイロットになるために、さらにいくつかの事項を刻み込むことです。最初に、横風による針路のずれ、つまりドリフトを修正する方法を学習します。

横風を受けながらのアプローチおよび着陸で、ドリフトを修正するには 2 つの基本的な方法があります。1 つは、”クラブ” という方法、もう 1 つは “ウィングロー (スリップ)” という方法です。それでは、風に流された分を修正するために航空機をクラブ (斜め飛行) させる方法を説明し、次に同じ目的で使用されるウィングローも見てみましょう。

クラブ飛行

“クラブ” という呼び方は、カニ (crab) が歩くようすから付けられたと思います。カニは、向いている方向とは別の方向に歩きます。私が思うに、カニは単にすべての足を一度に動かせないだけなんじゃないでしょうかね。いずれにせよ航空機では、向いている方向と異なった方向に飛行することを「クラブする」と呼びます。そして、航空機の飛行経路を地上に映したものを “地表上の経路” と呼びます。

パイロットがのほほんと座ったまま何も操作していない状態で、コンパスが 165 度の針路を指している場合、実際にその航空機がある地点から 165 度の経路上を逸脱しないで飛行するには、風がまったくない (あるいは機首または尾翼に向かってまっすぐ吹いている) ときに限られています。しかし、風が少しでもあれば、すべてが変わります。風が大きな手であると考えてみてください。 航空機は足を地面に付けていないため、風に押されて流されます。風の強さと方向によって、その影響は軽微であったり、大きなものになったりします。

多少なりとも風が吹いているときに、直線の地表上の経路を飛行する唯一の方法は、風の強さに合わせて機首を風上に向けて補正することです (図 1)。

図 1

機首を少し右に向け、風によって少し左に流される状態であれば、すべてのバランスがとれて、意図したように直線の地表上の経路を描けます。

では、どれくらいクラブすればよいのでしょうか。風上に向かって、たとえば最初は 5 ~ 10 度のわずかな調和旋回を行い、翼を水平にしてその結果を観察します。 “調和” 旋回と言ったことに注意してください。ラダーだけを使用してクラブするのではありません。ラダーとエルロンを組み合わせて使用し、風上の方向に旋回します。これを忘れないでください。とても重要なことです。

航空機が適切にクラブすると、図 1 の破線のように、滑走路の周囲に長方形の航跡を描きます。航空機の地表上の経路は、航空機 A が飛行しているように滑走路に対して垂直になります。同様に、航空機 C は風上に向かって左にクラブし、適切な地表上の経路を維持してベース レグを飛行します。もちろん、風向が滑走路の方向とは異なる場合、長方形の地表上の経路を維持するには、トラフィック パターンの 5 つのセグメントすべてでクラブしなければなりません (図 2)。

図 2

風に流されるままでは、目的地には到達できません。これは、トラフィック パターンでは特に重要な問題です。他のパイロットと管制官は、当然あなたが各レグをまっすぐたどるトラフィック パターンを飛行すると思っています。そうするには、風向を考慮しながらクラブして飛行する以外に方法はありません。

クラブが特に重要になるのは、ファイナル アプローチで航空機の向きを滑走路に合わせたときです。 地表上の経路が滑走路のセンターラインの延長線と揃うように、できるだけ早く風上の方向に旋回して、適切な角度でクラブしなければなりません。クラブする適切な角度を見つけるために、何回か旋回する場合もあります。それで正しいのです。そうしてください。

クラブする角度が決定したら、滑走路までその角度で飛行します。実際は、クラブしたままフレアをかけます。”クラブからの抜け出し” と呼ばれる操作を行うのは、航空機がフレアをかけて着地する直前です。

クラブからの抜け出し

これは、気難しい教官を置き去りにして航空機から抜け出すこととは何の関係もありません。クラブからの抜け出しとは、図 3a に示すように、ラダーをしっかり使って、着地の前に滑走路のセンターラインと航空機の前後軸の向きを合わせることです。

これまでも、着陸前にラダーを十分使って、航空機をまっすぐにしましたよね。それと同じことです。そして、もう 1 つだけ、必要な操作があります。

図 3a

右方向にクラブして飛行している場合、着地の前に航空機を滑走路にまっすぐ合わせるには左のラダーを踏みこみます。左のラダーを踏みこむと、航空機は左にバンクしようとします。そこで、図 3b に示すように、クラブから抜け出すときは、翼を水平に保つために、右のエルロンを少し上げる必要があります。

図 3b

クラブは、横風着陸の対処法として私は好みません。これを適切に行うには、タイミングが重要です。さらに面倒なことには、フレアの間に航空機の速度が下がるので、多くの場合、滑走路のセンターラインをたどり続けるには、クラブする角度を大きくしなければなりません。これは、航空機がフレア中に減速したため、速度が遅いほど風による偏流を補正するためのクラブ飛行角度を大きくする必要があるからです。したがって、フレアをかけたらクラブする角度を大きくし、次に、車輪が着地する直前に再び航空機をまっすぐにしなければなりません。とてもたいへんですよね。手間がかかります。しかし実は、パイロット、航空機、さらに乗客にとって、もっと簡単な別の方法があるのです。

ウィングロー

このウィングローを使用して横風を補正する方法は、横風の方向に航空機をバンクさせるだけです。これにはエルロンを使用します。風が右側から吹いている場合は、右のエルロンを少し上げます。これにより、図 4 に示すように航空機は風の方向にスリップ (内滑り) するため、この方法は “スリップ” とも呼ばれています。バンクが十分であれば、航空機のスリップは風による横向きの力で相殺されます。その結果、航空機は滑走路のセンターラインをたどるようになります。ただし、この操作を機能させるには、もう 1 つしなければならないことがあります。

図 4

風を補正するために十分なエルロンを使用すると、航空機はバンクの方向に旋回しようとします。そのまま旋回してしまわないようにしてください。バンクの方向と反対のラダーを十分に踏みこみ、航空機の前後軸が滑走路のセンターラインと揃うようにします。つまり、右のエルロンを上げて右の翼を下げ、右から吹く横風を補正した場合は、左のラダーを少し踏み込んで、航空機が右に旋回しないようにします。このとき、反対側の左のラダーは、どれくらい踏みこめばよいのでしょうか。機首が滑走路にまっすぐ向くように踏みこみます。うまくできましたね。

このまま滑走路まで飛行して、通常のフレアを開始します。特別なことは一切必要ありません。フレアを開始すると、右の翼が下がり (ここでは右の横風を想定しています)、右、つまり風上の車輪が最初に着地します。これは、正常で、予定どおりです。航空機は、横風の補正時にはこのように着地するように設計されています。もちろん、風上の車輪が着地したら、遅かれ早かれ反対側の車輪も着地しなければならないので、この車輪も地面に降ろします。1 つの車輪でタキシングしている航空機は見たことないでしょう。

クラブとウィングローの組み合わせ

横風を補正するための、クラブとウィングローの基本的な違いがわかりましたか。ウィングローの方がかなり簡単で、高い技術も必要としません。また、より効果的かつ総合的に横風を補正できます。それでもやはり、私は横風着陸では両方の方法を組み合わせています。

ファイナル アプローチでは、クラブして飛行します。次に、滑走路の約 100 フィート上空に達したときに、ウィングローに移行します。こうすると、横滑りの間中、乗客が航空機の壁に押しつけられるような不快感を覚えずに済むのです。

これでわかりましたね。横風着陸は、それほど難しいことではありません。ただ、これには練習が必要なので、あなたにもそれなりの練習を積んでいただきたいと思います。単独飛行のセッションで横風着陸を練習してください。では、次の講義でまたお会いしましょう。