レッスン 3: VOR 航法


運転している途中で道に迷ってしまい、うんざりして、通りかかった中古車ディーラーで車を売ってしまおうかと思ったことがありませんか? 車で迷わないで済むようにするのは簡単です。ガソリン スタンドに寄って、道を聞けばよいのです。ですが、航空機の場合はそうはいきません。もし、ガソリンを入れてもらい、オイルを点検してもらえたとしても目立ちすぎてしまいます。さいわい、航空機の場合は、VOR と呼ばれる航法装置の使い方を知っていれば道に迷う心配はありません。VOR とは、Very high frequency Omnidirectional Range (超短波全方向式無線標識) の略語です。

概要

VOR 航法には、次の 2 つのものが必要です。1 つは図 3-1 に示すような航空機内の VOR 装置、もう 1 つは数千フィートの高度からは屋根に巨大なボウリングのピンを乗せた小屋のように見える、地上送信局です。

図 3-1: A – VOR 受信機、B – VOR 指示器

図 3-2 に示すように、地上の送信機は局の中心から 360 本の放射状の電波を発信しています。

図 3-2: VOR の電波 (コース)

各電波は、0 度が北、90 度が東、270 度が西という具合に、方位を表しています。 VOR 装置を使用すると、VOR 局へ向かって、あるいは VOR 局から遠ざかって、この 360 本のコースのどれに沿っても航行することができます。

もちろん、VOR 局を利用した飛行は、局の位置を把握していなければ無意味です。 さいわい、パイロットは常に区分航空図 (セクショナル チャート、図 3-3) を使っており、このチャートには VOR 局の位置が示されています。

図 3-3

VOR 局 (A の位置) はコンパス ローズ (方位円) の中央にあります。コンパス ローズは 5 度ごとに小さな印が付けられていて、さらに 10 度ごとにもう少し大きな印が、30 度ごとに数字が示されています。

コンパス ローズの近くのボックス (B の位置) には、VOR 地上局の名前、識別用モールス信号、そして周波数が記載されています。図 3-3 の VOR の周波数は 112.3 です。CH70 は気にしないでください。これは軍用パイロットが使う周波数で、ケーブル テレビのチャンネルとは関係ありませんよ。

航空機の VOR 装置

大半の航空機には、1 基以上の VOR 受信機が備え付けられており、各受信機は、図 3-4 に示すような VOR ディスプレイに接続されています。

図 3-4: A – コース マーカー、B – CDI、C – フラグ、D – OBS ノブ

パイロットが VOR と呼ぶ場合は、通常、次の 5 つのパーツから構成されるこのディスプレイのことを指しています。

  1. ディスプレイの一番上にあるコース マーカーは、選択されているコースを示します。
  2. 垂直の針はコース偏向指示器または CDI と呼ばれ、左右に振れます。
  3. 上または下を指す三角形のフラグ、または赤白の縞模様のフラグは To-From インジケータです。上を指した三角形は TO (向かっている) を表し、下を指した三角形は FROM (遠ざかっている) を表します。赤白の縞模様のフラグは OFF を表します。この講義では、この 3 つのフラグの表示を、TOFROM、および OFF で表します。
  4. OBS (Omni-Bearing Selector、コース セレクタ) は、コースを選択するときに回すノブです。
  5. 円形の回転可能なコンパス カードは、OBS を回して調整します。OBS を回して、目的の方位の数値をコース マーカーの位置に合わせます。

VOR による航法

VOR による飛行では、まずチューニング ダイヤルを回して、利用する VOR 局の周波数に合わせます。航法受信機で適切な周波数を選択すると、空のハイウェイである飛行コースを飛ぶ準備が完了します。

OBS を回して、特定の方位の数値がコース マーカーのところに来るようにすると (図 3-5)、VOR 局が送信している 360 本のコースから選択することができます。

図 3-5

OBS を使用して 360 度、つまり 0 度を選んだとします (この 2 つは同じコースです)。 VOR ディスプレイは、360 度のコースが自機のどちら側に位置するかを示します。360 度のコースとは、VOR の真上を通過する、方位 360 度のコースです。270 度のコースを選択した場合、VOR ディスプレイは図 3-5 の B のように 270 度のコースに対する位置を示します。

OBS を使用して 030 度を選択すると、図 3-5 の C のように 030 度のコースに対する位置を示します。240 度を選択すると、図 3-5 の D のように 240 度のコースに対する位置を示します。

Flight Simulator では、VOR のコース セレクタ ノブを回して、コースを選択します。ノブの近くをカーソルでポイントし、プラス記号 (+) またはマイナス記号 (-) が表示されたら、マウス ボタンをクリックしてコースを選択します。

360 度 (0 度) のコースを選んだ場合は、マーカーは 0 を指します。このコースを飛行するには、まず、定針儀を使って、選択したコースと同じ 360 度に針路をとります。針路を 360 度にとると、図 3-6 の A のように、VOR ディスプレイの垂直の針 (CDI) は中央に来て、フラグは TO フラグ (上向きの三角形) になっているはずです。

図 3-6

VOR 局の真上 (図 3-6 の B) にいるときは、フラグが OFF (赤白の縞模様) になり、その時点では VOR に向かっているのでも、遠ざかっているのでもないことを示します。簡単に説明すると、選択したコースと航空機の針路が同じで、垂直の針 (CDI) が中央にあるときは、TO または FROM のフラグを見れば、VOR 局に近づいているのか、遠ざかっているのかがわかります。

選択したコース上で飛行を続けると、VOR 局を過ぎたとき、TO フラグは自動的に FROM フラグ (下向きの三角形) に変わります (図 3-6 の C)。

正しい針路で飛行しているときに、VOR の針 (CDI) が完全に中央にない場合は、どういう状態なのでしょうか。これは、まだ正しいコースを飛行していないことを示します。図 3-7 に、6 機の航空機とそれぞれの VOR ディスプレイの表示を示します。

図 3-7

航空機 A は、選択したコースと同じ方角である、針路 360 度で飛行しています。この航空機の VOR ディスプレイは、針 (CDI) が右側にあり、フラグは TO を示しています。これは、選択したコースが右方向にあることを示しています。また、仮に航空機 A がコース上を飛行しているとすれば、コース上を VOR 局に向かって飛行していることを示しています。航空機 A が選択したコースに乗る (コースをインターセプトする) には、右に旋回しなければなりません。航空機 C と E も同様です。 航空機 B、D、および F がコースをインターセプトするには、左に旋回しなければなりません。局の真横に来ると (局が進行方向に対して 90 度のところに見えるとき)、フラグは OFF を示します。これは、航空機がオフ コースである (コースから外れた) という意味ではありません。これは、現在、航空機は局に向かっているのでも、局から遠ざかっているのでもないことを示しています。垂直の針 (CDI) がいずれかの方向に傾いている場合は、その方向に旋回するように指示しているということを覚えておいてください。

VOR コースのインターセプトとトラッキング

図 3-8 のように、Whatzitz (ワッツイッツ) 空港を出発して、030 度のコースを VOR 局に向かって飛行し、VOR 局上空を通過するものとします。

図 3-8

正確を期するため、100 度未満の数には先頭に 0 を付けます。これは、パイロットが 30 度と 300 度とを間違えないようにするためです。030 は「ゼロ、スリー、ゼロ」と読みます。このように読むと、経験豊富な機長のように聞こえます。

目的地は、Rodster (ロッドスター) VOR から 030 度のコース上にある Yazoo (ヤズー) 空港とします。OBS を 030 に設定し、Whatzitz 空港を出発します。この航空機の VOR ディスプレイでは、針 (CDI) は左側にあり、フラグは TO を示しています。この状態での針 (CDI) の位置は、選択したコースが自機のどちら側に位置しているかを示すものではありません。これを判断するには、選択したコースと同じ方角に実際に機首を向ける必要があります。あるいは、自分自身がその方角を向いていると想像する必要があります。これには理由があります。VOR の針の動き、およびフラグの表示は、航空機の針路、つまり航空機が向いている方角とはまったく独立しているのです。

これは、重々強調しておきたい点です。VOR 装置は、航空機の針路、つまり航空機がどちらを向いているかは認識しません。そのため、VOR ディスプレイは、選択されているコースと同じ方角に航空機が向いているものとした上での情報を表示します。したがって、VOR ディスプレイからわかるのは、そのコースが航空機の左右どちら側にあるのかということと、航空機が VOR に向かっているのか、それとも VOR から離れているのかということだけです。

030 度のコースが航空機の左側にないのは明らかです。しかし、選択したコースと同じ方角である 030 度方向に航空機を向けると、針とフラグからコースのある方向がわかります。 この状態で初めて、指針の状態から、選択したコースが航空機の左側にあると言うことができるのです。TO/FROM フラグからは、コースに乗って 030 度の方角に向かえば、VOR 局に向かって飛行することになるということがわかります。この例では、航空機の進む方向と、機首が向いている方向をずらすような風は吹いていないものとします。

皆さんの頭の中には、先ほどからある疑問が浮かんでいることでしょうね。030 度のコースをインターセプトするために左に旋回しなければならない場合、旋回する角度はどのくらいにすればよいのでしょうか。答えは 1 度以上 90 度以下です。この旋回角度は、どれくらい早くコースをインターセプトしたいかによって変わります。VOR の針が完全にずれている場合は、選択したコースが 1 マイル離れているのか、100 マイル離れているのかはわかりません。そのような状況の場合は、できる限り早くコースをインターセプトすることが目標になります。そのためには、90 度の角度でインターセプトします。030 度から左に 90 度ということは、何度になるか考えてみましょう。コンパスで、選択したコースから左に 90 度の角度を見つけます (図 3-9)。

図 3-9

選択したコースと垂直の針路である 300 度の針路で飛行すれば、最短時間で選択したコースをインターセプトできます。

図 3-8 をもう一度見てみると、航空機 B が 030 度のコースをインターセプトするには、左に旋回しなければなりません。では、左に何度旋回すればよいでしょうか。答えは 1 度以上 90 度以下です。最短時間でコースをインターセプトするなら、図 3-8 の航空機 C のように、300 度の針路 (選択したコースに直角の針路) へ旋回します。

最初からこのように正確にできなくても、気にしないでください。 針が中央に動いていく速度は、VOR 局との距離が短いほど速くなります。経験を少し積めば、針が中央に近づいてくるスピードから、針路を変更し始めるタイミングの見当が付くようになります。

選択したコース上を VOR から遠ざかるには

VOR のさらに実用的な使い方を練習しましょう。現在、Ulost (ユーロスト) 空港の近くを、図 3-10 の航空機 A のように飛行しており、Wrongway (ロングウェイ) 空港まで飛行するとします。

図 3-10

今回は VOR のレッスンですから、VOR を使って Wrongway 空港を探しましょう。まず、Bigfoot (ビッグフット) VOR へたどり着くのに最適な方法を考えます。飛行中は、どこかの VOR 局へ向かう、いずれかのコース上にいると考えることができます。では、何度のコースにいるのかは、どのようにすればわかるでしょうか。それでは、その方法をお教えしましょう。

航法受信機の周波数を Bigfoot VOR の周波数に合わせ、図 3-10 の航空機 B に示すように、針が中央に来てフラグが TO になるまで OBS を回します。そして、このときのコース マーカーが指している方位を確認します。この例では、Bigfoot VOR に向かう 305 度のコース上にいることがわかります。定針儀を使って、航空機 B のように 305 度の方角に方向転換すれば、Bigfoot VOR に向かって飛行できます。 簡単ですね。

Bigfoot VOR に近づいたら、この VOR 局の中心と Wrongway 空港を結んだコースが何度なのかを考えます。チャート上に線を引いてコースを決定します。Wrongway 空港は VOR 局から 255 度方向にあることがわかります。 したがって、局の上空に来たら、航空機の針路を 255 度に変更し、OBS を 255 度まで回します。これで、航空機 C に示すように、VOR 局から Wrongway 空港に向かう 255 度のコースをトラッキングするように VOR ディスプレイを設定できました。

VOR トラッキング時の風に対する補正

すでに頭がいっぱいになっていないとよいのですが。ここからは、風について説明します。これまで説明してきた状況は、風の吹いていない環境を想定したものでした。しかし、実際には無風の状況はほとんどありません。 そこで、VOR を使って飛行する場合の、風に対する補正方法を学習しましょう。

風に対する補正は、次の 3 つの部分に分けることができます。

  • 航空機に対する風の影響を判断する。
  • コースを再度インターセプトする。
  • 風に対して補正する。
図 3-11

それでは、各項目を説明します。

  1. 風の影響を判断する。図 3-11 の航空機 A は、VOR 局に向かう 030 度のコースをインターセプトしたところです。
    無風状態であれば、航空機 A は 030 度の針路を維持し、針を中央に保ったまま VOR 局に向かって飛行することができます。
    しかし、風が少しでもあると、航空機 A はコースを外れてしまいます。
    風向きを判断し、適切な補正を行うことが、正しいコースを飛行するための最初の一歩です。
  2. 航空機に対する風の影響を判断するには、航空機の針路を選択したコース、この例では 030 度にします。
    そのままの状態で、しばらく待ちます。風がなければ、針は中央で静止しているか、ほぼ静止しているはずです。
    横風がある場合、針は航空機 B のようにずれていきます。
    針がどの程度ずれたら、コースをインターセプトし直すべきでしょうか。
    この例では、針がわずかに動く程度、VOR ディスプレイで目盛り 1 つ分弱動いたら補正するとよいでしょう。
  3. コースを再度インターセプトする。
    針が左に動く場合、選択したコースは航空機 B のように左側にあります。つまり、左から横風が吹いており、航空機はコースの右に吹き流されているのです。
    風向きを判断したら、風に対する補正を行う前に、本来のコースに戻る必要があります。
    コースに戻るには、図 3-11 の航空機 C に示すように、20 度の捕捉角 (インターセプト アングル) でコースを再度インターセプトします。
    強風の場合は、30 ~ 40 度の捕捉角でインターセプトしなければならない場合もあります。
  4. 風に対して補正する。
    コースに戻ったら、3 番目のステップとして、風に対する補正を行います。 風の力に対して補正するため、航空機を風上に向けます。どの程度向きを変えればよいでしょうか。
    これにはいくつかの要素が関係します。風の速度と方向も、そのうちの 1 つです。
    しかし実際には、これらの要素はそれほど問題ではありません。まず 10 度から補正を始めて、ようすを見ます。
    これは、映画を見に行くようなものです。その映画がどのくらいおもしろいか、またはつまらないかは、見てみなければわかりません (ちなみにこの間私が見た映画はあまりにひどかったので、途中で外に出てしまいました。
    ただし、残念ながら映画館ではなく自宅のテレビで見ていたので、自分の家から外に出るはめになっちゃったんですけどね)。
    コースに戻ったら、航空機を旋回させて、風上の方向に 10 度向くようにします。これで、図 3-11 の航空機 D のように 020 度の針路を向いていることになります。
    辛抱が肝心です。どうなるか、しばらく見てみましょう。

航空機 E は VOR 局に向かい 030 度のコースをまっすぐたどっています。針は動いていません。最初の 1 回で適切な補正角が見つかるなんて、どんなに経験を積んだパイロットでもラッキーなことなんですよ。 実際には、正しい補正角がわかるまで、少なくとも 2 回は試みる必要があるでしょう。VOR 局から特定のコースで遠ざかる場合も、同じように行います。

これで、VOR トラッキングの第一歩を踏み出しました。VOR トラッキングの博士、気象力学のマスター、空路航法の征服者への第一歩です。 世界中のパイロットが、あなたの指導を受けに来るでしょう。 テレビに出演することになるかもしれません。それも、生出演ですよ。その可能性を考えてください。少なくとも、目的地に到達する確率の方がよっぽど高いでしょう。

さて、そろそろレッスンで VOR 航法を練習する時間です。それが終わったら、トラフィック パターンの飛行に移ります。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

VOR 航法の上級課題: VOR と空のフリーウェイ

これまで、VOR 局へのルートをすべて「コース」と呼んできましたが、それには理由があります。そう考えれば、全体が理解しやすくなるからです。計器進入など高度な内容を学ぶにあたっては、特定のコースではなく、特定のラジアル (方位) で VOR 局に対して飛行するという考え方ができなければなりません。パイロットは、VOR を利用して行う飛行を「特定のコースをたどる」と言いますが、それは VOR 局に対して 360 度のうちの、いずれかのラジアルで飛行するということなのです。

小さな町をドライブしていると考えてみてください。この町の中を、図 3-12 の A に示すように、フリーウェイが北に向かってまっすぐ伸びているとします。この町に出入りするとき、車は北、つまり 360 度に向かうことになります。これは、フリーウェイが走っている方向です。 そのフリーウェイが、町に入るところと町から出るところで名前が違うとすると、この町を通過する車の方向は変わるでしょうか。もちろん、変わりませんね。図 3-12 の B のように、フリーウェイのうち、町の南側の部分を「フリーウェイ 180 号線」と呼び、町の北側の部分を「フリーウェイ 360 号線」と呼ぶことにしましょう。すると、”フリーウェイ 180 号線を通って町に入り、フリーウェイ 360 号線を通って町から出た” と言うことができます。 しかし、フリーウェイの名前が違ったとしても、進行方向は変わりません。

図 3-12

VOR による航法も、図 3-12 の C に示すように、基本的にはこれと同じです。VOR という町に向かって北向きの針路を取っている場合は、最初 180 度のラジアルをインバウンド (VOR に近づく方向) で進み、次に、360 度のラジアルをアウトバウンド (VOR から遠ざかる方向) で進むことになります。どちらの場合も、”空中のフリーウェイ” は、地上のフリーウェイと同様に方位 360 度の方向へ向かっています。この 1 本のフリーウェイを、VOR 局を中心としたラジアルによって示されると、混乱するかもしれません。しかしこれは、計器飛行パイロットが VOR 航法を行う際に身に付けておかなければならない考え方です。したがって、ある VOR 局の 180 度のラジアルをインターセプトして飛行するように指示されたら、それは OBS を 360 度または、180 度に設定する、ということだと理解できなければなりません。 計器飛行を始めるまでは、すべての VOR 航路をコースとして考えてください。

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