レッスン 2: 急旋回


待ちに待った急旋回の時間です。急旋回は楽しく、やりがいがあります。また、多くの場合パイロットが航空機の性能限界を認識し、自分の能力を試すことのできる良い機会でもあります。また、Microsoft® Combat Flight Simulator に挑戦する場合は、急旋回をうまく使うと、背後から攻撃してくる敵機から逃れることができます。

急旋回 (通常、45 度から 55 度までのバンク角での旋回) は、フライト技能の向上に役立つものです。急旋回の練習を何度もやってみてください。そうすれば、ずっとスムーズに操縦装置を操作できるようになったと感じるでしょう。 急旋回を練習することにより、高度な操縦技術に必要な、多方面に注意力を向ける方法を身に付けることもできます。

さらに、訓練生であるあなたがまだ気付いていないであろう恩恵もあります。急旋回を学ぶことによって、パイロットは、”航空機には限界があり、その限界を超える行動には犠牲が伴う” ということを実感できます。あまりに急な旋回は、失速を招くおそれがあります。地上から数千フィート上空を飛行中であれば、失速は必ずしも危険なことではありません。しかし、対気速度が不十分な状態で、高度を下げて飛行している場合には、滑走路に無理に合わせようとして急旋回をしてはいけません。そんなことをすれば確実にもう、飛行訓練ではなく地質学調査の訓練に突入してしまいますからね。実際、機体も 6 フィートくらい地中に “突入” してしまうことでしょう。

急旋回の航空力学

ここで、少し復習をしておきましょう。翼をバンクさせると、揚力によって航空機が横向きに引っ張られることは以前のレッスンで学びました。揚力の一部を水平方向へ作用させることによって、航空機は旋回するのです。

もちろん、一度動きだした物体は、そのまま動き続けようとします。ニュートンがそう言っていますね。航空機を旋回させようとするとき、航空機の質量は、それまでの進行方向を維持しようとします。ジェットコースターの向きが変わる瞬間に座席に押しつけられように感じるのも、この作用のためです。ジェットコースターのレールの向きが変わっていても、乗っている人の身体は直進し続けようとします。 この作用が重力と重なり、ジェットコースターの座席を突き抜けてしまいそうに感じるのです。

航空機はレールの上を進んでいるわけではありませんが、急角度で調和旋回を行うと、同じように座席に押し付けられるような力を感じます。旋回が急であればあるほど、座席に押しつけられる力も大きくなります。この力は、しばしば G (または荷重倍数) と呼ばれています。G は “gravity” (重力) という単語の頭文字です。

G は、どんな航空機でも感じるものです。 図 2-1 は、バンク角と G の関係を示すグラフです。

図 2-1: 荷重倍数グラフ

これによると、バンク角が 60 度の水平旋回の場合に、人間と航空機が受けるのは 2 G です。つまり、人の体重も航空機の重量も、通常の 2 倍になったように感じるのです。想像してみてください。脂コテコテのフライド ポテトを口にしたわけでもないのに、自分の体重が明らかに増えたと感じるのです。もちろん、機体が旋回飛行からロール アウトして水平直線飛行に戻ると、体重も元に戻ります。つまり、ちょうど今感じている体重、今までの人生で食べてきたフライド ポテトの総量によって決定された重さに戻るわけです。

ここで、1 つ注意すべきことがあります。G の増加により、人と航空機の重さが増えた場合、パイロットであるあなたは、その人工的な重量増加を補正する必要があります。飛行を続けるには、航空機の揚力を大きくしなければなりません。この補正を行わないと、航空機は急旋回中に高度を維持できなくなります。実際、失速する場合もあります。まさか、急旋回をするたびに失速させるパイロットとして有名になりたくはないでしょう。

急旋回中に揚力を上げるには、ジョイスティックを後ろに引いて、迎え角を大きくしなければなりません。航空機が飛行し続けるためには、揚力は重量と等しくなければなりません。この場合の重量とは、実重量または見かけ重量を意味します。旋回中に大きな G がかかっている状態は「見かけ重量が増した状態」です。このため、急なバンクの場合は、飛行に必要な揚力を生み出すための、大きな迎え角が必要となるのです。次にどうなるかは、もうおわかりですね。

あまりに急な旋回を行うと、飛行に必要な揚力が発生する前に、航空機が臨界迎え角に達してしまうおそれがあります。そうなると航空機は失速してしまいます。飛行を続けるには、失速から回復する操作を行わなければなりません。

つまり、急旋回により、航空機が失速する速度が速くなる、ということなのです。水平直線飛行では 50 ノットで失速する航空機でも、急旋回中は失速を回避するために 70 ノットが必要になります。 図 2-2 のグラフを参照すると、G の増加に伴って失速速度が速くなることがわかります。

図 2-2: 失速速度とバンク角の関係

たとえば、60 度のバンク角では、航空機とその中に存在する物体には 2 G がかかります。 そして、図 2-2 を見ると、2 G では失速速度は 40% 上がることがわかります。したがって、水平飛行時に 50 ノットで失速する航空機は、60 度のバンク角では 70 ノット (50 × 1.4) で失速することになります。

これはどういうことかというと、60 度のバンク角で急旋回しようとする場合、失速を回避するには、最低 70 ノットの対気速度を維持すべきだということなのです。すごいと思いませんか? 予言できてしまうのですよ。しかもこの予言は、魔法の水晶を覗き込んだり、骨を投げたり、お茶の葉占いをする必要もないのです。

こうした理由により、急旋回を行うときには出力を上げる必要があるのです。ほとんどの場合、出力を上げることで、失速を回避するのに必要な速度増加を行うことができます。 当然のことながら、航空機のエンジンが非力な場合は、急旋回中の失速を回避できるだけの高速を維持する推力を作り出すことはできません。病院へ行って、「先生、こうすると痛いんです」と言ったら医者は何と答えるでしょう。当然、「それをしてはいけません」と言いますね。

十分な出力を得られない場合は、急旋回などするものではありません。この話の結論は、これに尽きるのです。

今の段階では、テクニックについては心配しないでください。まずは、航空力学について学びましょう。旋回のテクニックについては後で説明します。

この実験の意味

ある旋回で高度を保つには、機首を 6 度上げた姿勢が必要だとします。そうすると迎え角が大きくなるので、翼の下側で気流にさらされる面積が大きくなります。その結果、揚力が大きくなりますが、同時に抗力も大きくなります。したがって、対気速度計に示されているように、航空機は若干減速します。

ここで、以下の問題が起こります。

  • 一定の高度で急旋回を行うと、対気速度は減少します。
  • 旋回によって失速速度が速くなっているので、注意していないと困難な状況に陥ります。
  • 失速速度が上がり、対気速度が下がる、この 2 つの速度が同じ値になることがあります。

その結果、どうなるのでしょうか。そう、航空機は失速します。急旋回中の失速を回避するにはどうしたらよいでしょうか。対気速度の減少を防ぐために、出力を上げるのです。もう一度いいますが、急旋回をかっこよく決めよう、と考える必要はまだありません。今の段階では、ぎこちなく、よろよろとした急旋回で十分です。少しずつ上達していきましょう。ダンスの基本ステップはこれから学習します。

2 G の旋回

45 度のバンク角で旋回し、出力を全開にするとします。すると、どうなるでしょうか。出力を上げると、航空機は対気速度を維持できることに気が付くでしょう。そうなんです。十分な出力があれば、対気速度を下げずに、うまく急旋回することができます。しかし、もっと急な旋回だったらどうなるでしょうか。たとえば、60 度のバンク角で急旋回するとします。このバンク角では失速速度が 50 ノットから 70 ノットに増加します。問題は、60 度バンクの旋回で対気速度を 70 ノット以上に維持するために十分な出力を出せるかどうかです。これを確認するには、安全な高度で実験してみるしかありません。実際に実験してみると、出力を全開にしても対気速度が下がってしまうことがわかるでしょう。これには理由があります。小さい航空機は、迎え角の増加に伴って大きく増加する抗力を打ち消すほどの出力アップができないからです。

トラブル対応

ここで、パイロットがしばしば遭遇するトラブルについて説明します。出力をアイドル状態にして着陸する場合に、機体を滑走路の向きに合わせるために急旋回したとします。低速状態のときに大きなバンクで急旋回すると、対気速度と失速速度が等しくなります。なぜなら、急旋回をしている間は、G が増すために失速速度が増加し、抗力が増すために対気速度は減少するからです。対気速度と失速速度が一致すると、航空機は失速します。もし、このような事態が地表近くで発生したらたいへんです。 この種の失速は “加速失速” と呼ばれ、よく耳にします。急旋回により発生した大きな G により、失速速度が速くなるのです。

はい、科学的な説明はこれで十分ですね。次は芸術の時間です。 カッコイイ急旋回の方法を説明しましょう。

燃料切れになる前の講義

急旋回を上手に行う秘訣は、その旋回で高度を維持するのに必要なピッチ姿勢を事前に知っておくことです。これは多くの不確定要素に影響されますが、おおよその見当を付けることはできます。通常、実際の航空機で急旋回を行う場合は、機外のようすも目で追って参考にします。それによって、航空機の姿勢を確認しつつ、別の航空機の接近にも気を付けることができます。しかし、Flight Simulator では外のようすを見ることは難しいので、代わりに水平儀に注目します。

図 2-3 を見てください。

図 2-3

これが、45 度のバンク角での旋回に必要なおおよその姿勢です。旋回に合わせて、機首を 6 度上げた姿勢になるまでピッチを徐々に大きくする必要があります。そして、高度計を確認しながら、高度の維持に必要なピッチの微調整を行います。また、昇降計 (VSI) を使用することもできます。旋回の秘訣は、ピッチを微調整することと、姿勢から注意をそらさないことです。

大きく調整しすぎると、指定された高度を外れてしまい、戻そうとして空中をあちこちさ迷うことになります。次のような条件の急旋回ができれば自家用操縦士としては合格です。

  • 高度が 100 フィート以上変化しない。
  • ロール アウトの針路が、開始した針路と 10 度以上ずれていない。
  • バンクの変化が 5 度以下である。
  • 対気速度が、旋回に入ったときの速度から 10 ノット以上変化しない。

急旋回するときに注意しなければならないことがもう 1 つあります。それは、ジョイスティックを手前に引くと、バンクが少し大きくなる傾向があるということです。ですから、急旋回中はバンクが大きくならないように注意してください。ジョイスティックを手前に引いていると、ついついバンクが大きくなってしまいます。また航空機には、急なバンク姿勢になると、パイロットが何もしなくてもバンク角が増加する傾向があります。繰り返しますが、これは必要に応じて、エルロンで補正する必要があります。したがって、急旋回しているとき、特に高度を維持するためにジョイスティックを手前に引いているときは、バンクが大きくなりすぎないように、ジョイスティックを使って、旋回方向と反対側のエルロンを少し上げなければならない場合があります。

おそらく皆さんは、なぜ急旋回時のトリム調整について何も説明しないのだろうと疑問に思っているでしょう。その理由は、トリムを使用するのは操縦装置を比較的長時間、一定の状態で保持したい場合だけだからです。急旋回は一時的な行動なので、通常、トリムは使用しません。 また、急旋回を行うと、加速失速の始まり方がよくわかるようになります。実際の航空機では、G が大きくなると身体が座席に押し付けられるのを感じることができます。これは、シミュレータでは体感できません。 したがって、対気速度が速いときに失速が起こりそうな状態は、ジョイスティックを引いている力から判断しなければなりません。これが、急旋回でトリムを使用しないもう 1 つの理由です。

これで、さらに大きなバンク角での急旋回を練習する準備ができました。レッスンで練習するときは、バンク角を 55 度まで一度に上げてみましょう。55 度というのは、事業用操縦士技能証明を取得するための旋回テストでのバンク角です。高度の変化は 100 フィート以内、対気速度の変化は 10 ノット以内、さらにロール アウト針路が旋回開始時の針路から 10 度以内に収まるようにしながら、旋回のロール インとロール アウトをやってみてください。できるだけ楽しんでくださいね。

では、急旋回を練習してみましょう。今学習したことを練習するには、[このレッスンを開始する] をクリックしてください。

フライング レッスンの次の講義では、空港のトラフィック パターンの安全な飛行方法について説明します。

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