計器飛行の概要


計器進入

今回は、何か飲み物でも用意して、ゆったりと腰を下ろして学習を始めましょう。そう、どうぞ楽にしてください。この講義の主な内容は、計器飛行の基礎に関する簡単な説明です。 別にたいへんな秘密を明かすわけではありません。密談を始めるわけでもありませんし、特別なパスワードもいりません。具体的には、今回の講義では、計器進入とは何か、なぜ、いつ、どこでどのように行うかについて説明します。

VFR 飛行と IFR 飛行の比較

ここまでの講義では、航空機を視覚に頼って、つまり窓から見える地平線を頼りにして操縦する方法に時間を割いてきました。パイロットの言葉では、これを「VFR で飛行する」と言います。この VFR は Visual Flight Rules、すなわち有視界飛行方式の略です。では、雲に遮られて地平線が見えない場合は、どうするのでしょうか。その場合も航空機を操縦することはできるのでしょうか。答えはイエスです。IFR (Instrument Flight Rules)、すなわち計器飛行方式で飛行することができます。

IFR 飛行では、計器を使用して姿勢をコントロールし、目的地の空港への針路を示す VOR などの航法計器を使用して、雲の中を飛ぶことができます。つまり、航空機が着陸体勢に入るまで、機外をほとんど見ることのできない雲に覆われた状態でも、操縦することができます。 しかし、着陸時については、滑走路が目視できることが常に必須条件となります。

計器飛行を行うには、計器飛行証明を取得していなければなりません。計器飛行証明は、自家用操縦士技能証明を取得した後に取得します。取得するには、計器だけに頼った操縦や、より高度な航法などの特別な訓練が必要です。計器飛行の訓練の大半は、計器スキャンの学習と深く関連しています。

さて、ここからは、計器スキャンを越えた先のステップに進みます。 次のレベルに進むからといって、口から火を吹く複眼の巨大なボス敵を倒す必要はありませんよ。 物騒な武器はホルスターに戻して、のんびりと用意した飲み物でもすすってください。私たちはこれから、本格的な計器進入の方法を学習するだけなのですから。

計器飛行: 概要

計器飛行の手順を説明しましょう。まずパイロットは、航空交通管制 (ATC) に IFR フライト プランを提出します。これは、高級レストランでディナーをとるときに、予約を入れて席を確保してもらうことに似ていますよね。ATC の場合もまったく同じです。フライト プランを提出し、出発の準備が整ったら、通常は出発地の管制塔を呼び出して、フライト プランを提出してあることを告げます。すると、管制塔から、「OK、フライト プランは受理されています。離陸を許可します」と言ってきます。このように非常にシンプルで、しかもレストランとは違ってチップを置く必要もありません。

許可を得たら、そのフライト プランのもとに離陸し、雲の中めがけて上昇して (実際に雲がある場合ですが)、目的地に向かいます。目標は、上空の航空路に沿って目的地へと飛行することです。これらの航空路は、飛行地域を縦横に交差する VOR コースから構成されています。では、どうやって正しいルートを見つけるのでしょうか。それはちょうど、ドライブに出かけるときに、どのハイウェイで行けばよいかを調べるのと同じ方法、つまり道路地図を使用します。ただし、パイロットが使うのは、VOR ルートと、各 VOR ルートの最低高度が示されている航空用の地図です。

飛行中はずっと、航空管制官 (ATC) とその高価なレーダーが、あなたの機影と、その付近を IFR で飛行している他の航空機を追跡しています。航空機どうしの間隔が近づきすぎると、レーダー管制官は、間隔を空けるように無線で指示を飛ばしてきます。指示と言っても、「ほれ、危ないよ!」といった類のあいまいな指示ではありません。管制官は、航空機どうしが衝突する危険がなくなるまで、互いに十分な距離が取れるよう、それぞれに針路を指示してくれるのです。

パイロットは目的地に近づくと、フライト バッグからティッシュ ペーパーほどの薄い 1 枚の紙切れを取り出します (これで鼻はかまないでくださいね)。この紙は、”計器アプローチ チャート” と呼ばれるものです。これには、エン ルート (巡航) 区間を離れ、空港にアプローチし、着陸するまでを VOR などの電子航法を使って行う手順が、こと細かに記されています。大空港のほとんどには、計器進入路とそのチャートが 1 つ以上用意されています。図 1 は、典型的な VOR 計器アプローチ チャートです。

図 1

アプローチ チャート

計器アプローチ チャートには、共通して記載されている情報がいくつかあります。一番上には、航空管制官と交信するための無線周波数が書かれています (A)。その下は、この空港に向かって飛ぶための電子航法援助施設を示した平面図です (B)。その下にあるのは、空港に向かっての予備降下の段階で必要になる、最低高度の制限を示した垂直断面図です (C)。一番下はミニマ セクションで (D)、ここには、その空港に向かって最終降下するときの最低高度が記載されています。

また、ミスト アプローチ ポイント (MAP) というポイントがあり、これもすべてのアプローチ チャートに記載されています。MAP からは、着陸に支障がない程度に滑走路を見通すことができなければなりません。このポイントは、通常 “M” という記号で、垂直断面図 (C) に記入されています。もし、MAP から滑走路がはっきりと見通せなければ、ミスト アプローチしなければなりません。こうなると、大半の場合は、もっと天気の良い他の空港へ向かわなければならないでしょう。

さて、ここまではいわば計器進入についての予備知識です。計器進入には、一般的なパターンが 2 つあります。「VOR アプローチ」と「ILS アプローチ」です。VOR アプローチの詳しい説明については、「レッスン 1 VOR アプローチ」を参照してください。呼ばれています。

ILS アプローチ

ILS は 2 本の電波ビームから成ります。1 つは水平方向のガイド、もう 1 つは垂直方向のガイドです。ILS アプローチを VOR アプローチと比較した際のメリットは、着陸する滑走路までまっすぐに、かつ楽に着陸できる高度まで誘導してくれる点です。VOR アプローチなどのアプローチ方法では、空港の真上、それも滑走路より数百フィートも高い位置までしか誘導してくれません。当然、これでは計器進入から実際の着陸への移行が難しくなります。ILS のローカライザ波は、VOR のコース幅よりもはるかに敏感です。敏感と言っても、怒鳴りつけるとすぐに泣き出してしまうわけではありません。ここで言う敏感とは、コースの振れに対する針の反応が、VOR の針よりも早いということです。このことは、針を中心に保つのが難しいということにもなります (また、グライド スロープの針も非常に敏感だということを覚えておいてください)。

図 2 は、ポートランド国際空港の 28R 滑走路の ILS アプローチ チャートです。空港の位置は図中の A です。ローカライザの周波数は 111.3 MHz です (B)。この周波数を NAV1 航法受信機に入力すると (NAV1 は、2 台重なっているうちの上の方の受信機です)、VOR ディスプレイはこの滑走路に正確に向かう、唯一決められているコースをトラッキングするように設定されます。これを、「ローカライザ コース」と呼びます。ポートランドの場合は 279 度の方位に向いています (C)。

図 2

ローカライザ周波数を調整したら、針路の基準とするため、OBS をインバウンド コースに合わせます。VOR 受信機は、ローカライザのコース情報のみを受信するよう周波数が調整されているため、OBS は機能していません。ローカライザの周波数に合わせると、特定のグライド スロープ周波数に自動的に調整されます。これは、アプローチ チャートには表示されていません。

現在、D の地点にいて、高度はグライド スロープ インターセプト高度である 3,000 フィートだとします。針路は 279 度で、VOR ディスプレイのグライド スロープの針は中央より上にあります。つまり、航空機は現在グライド スロープの下側にいるということです。3,000 フィートを維持して飛行すると、グライド スロープの針が中央に来るので、それがインターセプトした印になります。ここから、前に練習した定率降下を始めてください。

VOR アプローチのときに行った段階的な降下ではなく、ILS では電波ビームをたどることによって、経路上の障害物に当たることなく、ミスト アプローチ ポイント (MAP) まで降下できます。

グライド スロープ上を降下していくと、垂直断面図で影の付いているアウター マーカー上空 (E の地点) を通過します。このとき、コックピットの青いマーカー ビーコンライトが点灯します。アウター マーカーは、降下経路の特定のポイントに来たことを知らせてくれます。つまり、垂直断面図の F にあるように、滑走路から 5.2 マイルの地点です。

ILS では、どこまで高度を下げることができるのでしょうか。G で示されているミニマ セクションに記載された決心高度 (DH) までです。この場合は 280 フィートです。DH はミスト アプローチ ポイントで、この高度になるまでに滑走路を目視することができなければ、ミスト アプローチをしなければなりません。滑走路の開始端 (H の位置) に “M” と書いてありますね。たまに、ILS アプローチをグライド スロープなしで行うパイロットもいますが、それはグライド スロープ受信機を積んでいないか、空港のグライド スロープが機能していない場合です。そこで垂直断面図には、VOR アプローチでの段階的な降下高度と同様、ローカライザ アプローチを行う場合の最低降下高度 (MDA) が I のように破線で記載されています。ローカライザ アプローチの許可を受けたら、まず J にあるように、1,900 フィートに降下してアウター マーカーを通過し、続いて K に書かれている 560 フィートまで降下してから、MAP に向かいます。MAP は、アウター マーカーからの所要時間 (対地速度によって異なります) か、ローカライザの DME 距離で表します (L)。

これで、このアプローチ チャートに記載されている、ほとんどすべての情報について説明しました。たとえば、BTG (バトル グラウンド) VOR (M) 上空にいて、航空交通管制 (ATC) にアプローチを許可されたとします。BTG から ILS に向かうフィーダー ルートは、N にあるように 135 度ラジアルです。このラジアルをアウトバウンドで VOR トラッキングしながら、ローカライザをインターセプトします。では、ローカライザをインターセプトしたことは、どのようにして確認するのでしょうか。それには、下段の NAV2 無線機を BTG VOR からのアウトバウンド (つまり FROM) に設定し、上段の NAV1 無線機をローカライザ受信用に設定します。BTG VOR から FROM で飛行しながら、ローカライザの針が中央に来たら、それがローカライザ上に来たという印です。135 度コースはローカライザ上の LAKER (レーカー) インターセクションに交差しているので、コックピットのアウター マーカー ビーコンライトが点灯することによってもこれがわかります。

LAKER からは、O にあるように針路 099 度で飛行しながら P で示されている 3,500 フィートに降下し、LAKER から 10 nm (海里) 以内でプロシージャ ターンを行ってください。ここで、ローカライザに関して知っておくべき重要な点があります。ローカライザは、一般の VOR と違って 1 本の電波ビームなので、本来のインバウンドと逆方向、つまりアウトバウンドでこれをたどろうとすると、針の動作が逆転します。別の言い方をすれば、ローカライザからアウトバウンドで飛行する場合、ローカライザの針を中心に戻すには、振れた側とは反対方向に航空機を向けなければならないということです。これは “リバース センシング” と呼ばれる現象です。したがって、ローカライザをアウトバウンドで飛びながらプロシージャ ターンに入ろうとする場合、針を中心に保つためには、針の動きとは逆の方向に飛行しなければなりません。

プロシージャ ターンを終えて、279 度のインバウンドに向かうと、針の動きは正常に戻っています。プロシージャ ターン後、ローカライザのインバウンドに乗ったら、3,000 フィートのグライド スロープ インターセプト高度まで降下できます。ローカライザとグライド スロープに合わせて、DA まで降下してください。ILS による飛行方法については、後でさらに詳しく説明します。

概要にしては内容が多かったと思いますが、少なくとも計器進入についての基礎知識は学習できました。しかし、上達するには少し練習が必要です。計器進入はくせになりそうなくらい、とても楽しいものです。